仲新城誠(八重山日報編集長)


 沖縄出身の芸能人たちが勃興してきた時代、私は20代前半で、沖縄の大学を卒業したばかりだった。東京から遠く離れた石垣島にいて、テレビで熱狂的に報じられる安室奈美恵やSPEEDを見ながら、単純に「沖縄出身でもこれほどのスターになれるのか」と思った。彼女たちの出現以前は、沖縄出身で目立った芸能人はほとんどいなかったからだ。ましてや紅白歌合戦のような大舞台で沖縄人を見るのも稀だった。沖縄出身のスターが珍しくなくなった昨今の芸能界を見ると、隔世の感がある。

 彼女たちより10歳ほど上の私は、沖縄復帰前の世代がいまだに深刻に訴える、本土からの「差別感」が癒やされる道のりを、この目で見て育った。

 米軍支配の苦難から脱し、政府の沖縄振興策を背景に、インフラ整備がみるみる進み、県民は見違えるような豊かさを享受できるようになった。沖縄の自然や文化が全国的に見直され、観光客や移住者がどんどん増えた。今や沖縄は世界屈指のリゾート地に成長し、本土の人たちから憧憬の眼差しを向けられるようになった。

 自民党が参院選比例代表に擁立したSPEEDの今井絵理子氏(32)は沖縄復帰から11年後の1983年に生まれた。沖縄が背筋をぴんと伸ばし、世界に向けて胸を張り始めた「ニュー沖縄」の第一世代である。基地負担の歴史を沖縄戦から説き起こし、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設を「沖縄差別だ」と切り捨てる翁長雄志知事とは「世代が違う」のだ。

 私は復帰直後の生まれなので、上の世代の屈辱感も、下の世代のプライドも等距離に理解できる。要するに、二つの世代の狭間で生きてきた。

 今井氏が当選すれば、翁長知事がシンボル的な存在になっている「旧来の沖縄」に対し「ニュー沖縄」の世代が初めて国政に進出する。沖縄で支配的な反基地の風潮に迎合せず、安全保障問題できちんとした政策の柱を堅持すれば、翁長知事への対抗軸として大きな存在感を発揮し得るだろう。

自民党の参院選比例代表候補に決まり、手話を交えて記者会見する「SPEED」メンバーの今井絵理子氏(中央)=2月9日午後、東京・永田町の党本部
自民党の参院選比例代表候補に決まり、手話を交えて記者会見する「SPEED」メンバーの今井絵理子氏(中央)=2月9日午後、東京・永田町の党本部
 今井氏や、その世代が沖縄の基地負担に鈍感だというわけではない。自らが背負って立つ沖縄像の違いである。それは「本土対沖縄」という構図で語られる沖縄ではない。「日本の中の沖縄」または「日本の最先端をゆく沖縄」でもあるように感じる。

 今井氏は障害を持つ子どもを育てているということで、訴えは福祉政策がメインになりそうだが、安全保障問題はなるべく避け、あえて翁長知事との対決を避けるという中途半端な姿勢であれば、有権者としては物足りない。単なるタレント候補で終わってしまう懸念もある。

 沖縄の市町村では20代の議員や40代の首長も珍しくなくなったが、国政レベルでは、そこまで若返りは進んでいない。沖縄出身の30代女性が国会議員になった例は過去にない。今井氏は比例代表なので、当選しても活動が沖縄に限定されるような国会議員になるわけではないが、若者、しかも女性の社会進出という点で、沖縄社会にも大きなインパクトを与える可能性がある。

 実際のところ、私が聞いた範囲では、沖縄でも本土でも、今井氏は「沖縄」というイメージで見られているようだ。そこで、今井氏には沖縄選挙区で3選を目指す島尻安伊子沖縄担当相と連携した選挙運動が期待されている。自民党は前回衆院選で、県内4つの選挙区すべてを落としており、国政選挙で巻き返す意義は大きいが、実は大きな問題点がある。

 沖縄の選挙では自公の選挙協力が重視され「選挙区は自民、比例は公明」と呼び掛ける運動が一般的なのだ。島尻氏が会長でもある自民党沖縄県連としては公明党の手前、比例で今井氏を応援するわけにはいかないのである。

 今井氏の擁立は自民県連にとって寝耳に水だったようで、関係者は「報道があった時、すぐに公明党との関係がどうなるか心配になった。支持者からも県連に抗議の電話があったと聞いている」と暗い表情を見せる。

 辺野古移設に反対する「オール沖縄」勢力は元宜野湾市長の伊波洋一氏を擁立した。「オール沖縄」は宜野湾市長選で敗れたが、参院選が天王山と見て、必死の巻き返しを図っている。

 島尻氏はただでさえ反基地派から落選運動の標的にされており、参院選はかなり厳しい選挙になるとの見方が一般的だ。自民県連としては島尻氏の3選のため、自公協力をぜひとも成立させたいところであり、比例では今井氏を支援する党本部との板挟みになる可能性もある。

 ただ、参院選の自公協力に関しては、もともと不透明な面がある。沖縄の公明は辺野古移設に反対しているからだ。

 辺野古埋め立てを承認した仲井真弘多前知事が翁長氏に大敗した要因の一つに、公明が支援を見送ったことが挙げられている。一方、宜野湾市長選では、候補者が辺野古移設の是非に言及しないことを暗黙の前提に、自公協力が成立した。閣僚でもある島尻氏が参院選で辺野古容認を明言しないことは考えられず、沖縄の公明は難しい選択を迫られる。

 しかし、沖縄の公明が辺野古反対をかたくなに貫くあまり「オール沖縄」の候補が選挙で勝っても、政治的には何の得にもならない。沖縄の公明は、いずれかの時点で支持者にきちんと説明し、辺野古容認に舵を切るべきだ。しかし、このタイミングでの今井氏擁立は、逆に公明の反発を招き、辺野古容認の機運を遠のかせる危険性がある。島尻氏としては、自公協力と今井氏との連携をどう両立するか、重い課題になりそうだ。

 島尻氏が勝利すれば「オール沖縄」は事実上の終焉となるはずだ。翁長知事の権力基盤は崩壊し、2年後の知事選で、自身の再選も危うくなる。

 自民の今井氏擁立は公明との関係では劇薬だが、奏功すれば沖縄の大きな転換点になりそうだ。