上念司(経済評論家)

 シャープが鴻海に買収された。浅薄な陰謀論を語る人たちが、「軍事にも転用できる技術が支那に盗まれる!」と大騒ぎしているようだ。まったくおめでたいとしか言いようがない。商売の世界がそれほど単純だったら楽でいいが、現実はまったく違う。
シャープの携帯情報端末PDAザウルス=2002年6月25日
シャープの携帯情報端末PDAザウルス
=2002年6月25日

 私はシャープ製品を愛用してきた。初めて買ったウィンドウズPCはメビウスだったし、液晶テレビもアクオスを愛用していた。さらに、今のスマホの技術を先取り(?)していたザウルスにも相当なお金をつぎ込んだ。彼らの描く未来の大きな絵を信じて。

 しかし、私の期待はことごとく裏切られた。新しい製品をぶち上げるときのコンセプトは素晴らしい。しかし、それが毎回と言っていいほど長続きしない。だからこそ、客はシャープを見放した。

 結論から言えば、今回の鴻海による買収はシャープの自業自得である。そこにたまたま鴻海が現れた。それが現実だ。日本の家電メーカーはかつて優秀だったかもしれない。しかし、創業者が一線を退き、サラリーマン経営者が跋扈するようになって何かが変わってしまった。

 そもそも、戦後世界を席巻した日本の家電メーカーは、当時はみんなベンチャー企業だった。しかし、会社の経営が安定し、サラリーマン経営者が台頭すると、日本の家電メーカーの既得権の上に胡坐をかくようになった。彼らはリスクを取らない安全運転に終始する。さらに、不幸にしてこの時期に政府、日銀の失政によるデフレが重なってしまった。その結果、日本の家電メーカーの凋落は顕著になった。

 例えば、アメリカのアイロボット社が作ったお掃除ロボット「ルンバ」。なぜこの製品は最初に日本のメーカーから発売されなかったのか?パナソニックでは、とっくの昔に試作品が作られていたそうだ。ところが、「掃除ロボットが仏壇にぶつかり、ろうそくが倒れ、火事になる」とか、「階段から落下し、下にいる人にあたる」とか、「よちよち歩きの赤ちゃんの歩行を邪魔し転倒させる」といった小役人的な発想でこの企画は潰されてしまった。(※1)

 1980年代にウォークマンで世界を席巻したソニーが、どうしてiPodのような製品を作れなかったのだろうか? 当時の経営者にネットがわかる人が一人もいなかったからだ。(※2)そして、ソニーはいま保険でしか利益を上げられない金融会社に成り下がった。

※1 
http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/120211/wec12021118000001-n1.htm

※2
http://nikkan-spa.jp/933086