北原惇(哲学者)

 二十世紀も終わりに近づく頃、いくつかの非常に興味のある現象が西洋文明の中に見られるようになった。その一例は一九八九年にアメリカのテレビで放映されはじめた「シンプソン一家」と題されたアニメのシリーズである。これはスプリングフィールドと呼ばれるアメリカの小さな町に住む、ごく平均的なヨーロッパ系アメリカ人一家の毎日の生活を扱ったものである。

 これは最初はアメリカ国内だけの放映であったが視聴率の高い番組となり、その後ヨーロッパや日本などで世界的に放映されるようになった。これは息の長い番組で現在でも見られるほどの人気を博す有名なシリーズとなってしまった。
 このアニメはシンプソン一家が毎日のように体験するいろいろな事件をおもしろおかしく描写する。それらの出来事はアメリカでの日常生活でごく当たり前に見られるもので、そのためアメリカ人の視聴者ならば誰でもこれらの出来事を直ちに自分のことのように感じとり、一家の人物と一緒になって一喜一憂するわけである。そしてこれがこのシリーズが大成功をした理由であると思われる。

 このシリーズの最も興味深い点は、シンプソン一家を含め、スプリングフィールド住民の大多数、つまりヨーロッパ系の住民、が明らかに黄色の肌をしていることである。それと共にアメリカの町であるために少数のアフリカ系の住民も登場する。さらには現在のアメリカを描写しているためにインド系の人物も登場する。これらのアフリカ系やインド系の人物は黄色ではなく濃い茶色の肌に描かれている。そしてアフリカ系住民の肌の色は黒ではなく濃い茶色であるのが注目すべき点である。

 このシリーズでよく知られている特徴として政治や文化などあらゆる分野のアメリカの有名人がほぼ毎回登場する。そしてこれらの有名人がヨーロッパ系であっても、その皮膚の色はやはり黄色なのである。

 あるエピソードでは一家は日本に行くが、描写されている日本人はヨーロッパ系と同じ肌色かほとんど白と言ってもよい灰色になっている。このエピソードでは日本の有名人として天皇が登場するが天皇の皮膚もシンプソン一家と同じ色となっている。

 二番目の例としてスウェーデンで見られた現象を取り上げたい。一九九一年に「新民主党」と呼ばれる新しい政党がスウェーデンで結成され、早くもその年の選挙でスウェーデン議会に党員を送り込むことに成功してしまった。それまでに存在していたスウェーデンの政党のエンブレムは花やアルファベットの頭文字を用いたものが多かったが、新民主党は型破りで、童顔をした若い男の顔をエンブレムに用いた。

 人間の顔を政党のエンブレムに用いたこと自体がスウェーデンで型破りであったのはもちろんであるが、更に興味深いのはこの男の顔の皮膚の色が黄色であり、髪の色は黒であるという点である。念のために明記しておく必要があるが、新民主党はスウェーデン国民全体から支持票を得るために結成されたもので、「黄色の肌と黒い髪」の人々を意識して発足した政党ではない。そして事実スウェーデン国民は新民主党を他の全国政党とまったく同じようにスウェーデン人全体のための政党と理解したのである。

 三番目の例はデンマークにある「レゴランド」と呼ばれるテーマパークである。このテーマパークの中にはあちらこちらに像が設置されているが、これらの像はすべて黄色の顔をしている。日本でもよく知られている、レゴと呼ばれるプラスチック製の積み木のようなものを組み立てる玩具があるが、レゴランドはレゴを使って組み立てた建物や動物などを多く集めたテーマパークである。

 用いられるレゴはいくつかの色のもので、白、黒、黄色、緑色などいろいろあり、白のレゴを選んで顔にするのはもちろん可能である。にもかかわらず立っている像の顔には白ではなく黄色のレゴが用いられている。

 四番目の例はオーストラリアで放映された「パジャマを着たバナナたち」という子供向けのテレビ番組である。その題名のとおり、二つのバナナがパジャマを着て二人の人間のようにふるまう。当然であるが主人公二人はバナナであるので体全体は黄色である。これはオーストラリアの子供たちの人気番組で、二〇〇〇年にシドニーで夏季オリンピックが開催された時には二人のバナナも開会式の入場行進に参加した。