石塚伸一(龍谷大学教授[刑事法]・弁護士)

──家族に薬物に手を出した者がいたら、どうすればいいんですか。

石塚
 アルコール、シンナー、向精神薬あたりなら、専門医や精神保健センターに相談できます。しかし、覚せい剤の場合は難しいですね。所持や使用が犯罪なので、うかつに相談すると警察が登場して、逮捕されてしまいます。「息子が、友だちと変な薬を使っている」と交番に相談したお母さんが、結果的に、息子の薬物使用を通報したことになってしまった、というケースもあります。相談にいく場所がないこと、相談しづらいことが、治療を遅らせている側面もあります。それが覚せい剤の最大の問題です。
画像はイメージです
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──だから薬物犯には、処罰だけでなく治療の要素も取り入れないと解決にならないと言われるわけですが、石塚さんはアメリカのドラッグ・コートを視察されたりしていますよね。日本の裁判所とは全く違うものなんですか。

石塚
 法廷自体は普通の裁判所です。例えば私たちが見に行ったロサンゼルスは、ダウンタウンの郡裁判所に刑事部が7つか8つあって、そのうちの一つがドラッグ・コート(薬物専門裁判所)になっている。その法廷では、通常の裁判もやっているんですが、ドラッグ・コート裁判官というのがいて、そのときは完全にその裁判官がひとりで運営する。キャリアを聞くと、少年裁判所の裁判官だった人とか、教員学校の先生から裁判官になったというような特殊な経歴を持っている、割と苦労人が多いですね。

 ドラッグ・コートに来る人の中には、薬物犯罪の人もいますし、薬物関連犯罪、つまり、薬が欲しくて自転車を盗んじゃったみたいな窃盗犯もいます。彼らは、自らの犯したとされる犯罪について有罪の答弁をして、有罪は確定します。そして、刑罰や処分を決定する段階になって、検察官と弁護人と裁判官とが話し合いをして、「この人は窃盗罪に関しては有罪だけど、その原因が薬物なんだから、刑を言い渡すのに関しては保留して、試験的にプログラムに参加させてみよう」という合意ができると被告人に話しかけます。「あなたにプログラムに参加してもらい、6カ月間、様子を見ることにします。その間に再犯行為がなく、薬物依存が回復すれば、刑務所に入れないことにします。いいですか」。本人が同意し、プログラムが無事修了し、卒業ということになれば、刑を言い渡さないという処分が確定します。