河合雅司(産経新聞論説委員)

 団塊世代が75歳を超える2025年には、高齢者数は現在より600万人ほど増え3657万人を数える。高齢者が増えれば、病気になる人も多くなる。政府の社会保障制度改革国民会議の資料によれば、1日当たりの入院患者は2011年度の133万人から2025年度には162万人、必要となる病床数も166万床から202万床へと跳ね上がる。
 だが、患者数の伸びに合わせて病床数を増やすことは現実的ではない。少子化が進めば、あらゆる職業で人手が不足する。社会全体を考えれば、医師や看護師だけを増やすわけにはいかないからだ。ベッドの数だけ増やしても、十分な医療サービスを提供することはできない。

 超高齢社会において医療制度を維持するには、高齢者に対する医療の在り方を「21世紀型医療モデル」に改めることが必要だ。

大病院集中をやめよ


 まず求められるのは国民が意識を変え、安易な受診を控えることだ。軽度なのにすぐ大病院に行く人がいるが、こうした行動を慎まない限り、超高齢社会において医療を成り立たせることは難しい。

 医療機関側はどうすべきなのか。社会保障制度改革国民会議がまとめた報告書が一つの結論を導き出した。

 保険証一枚で自由に医療機関を選べる現在の「フリーアクセス」の考え方を、「必要な時に必要な医療にアクセスできる」との解釈に改める必要性を指摘。地域ごとに病院の役割機能を明確にすべきだとしているのだ。

 高齢の患者は、リハビリが必要だったり、完治が難しく慢性的な病状に苦しむ人も少なくない。病気が完治するまで高機能の大病院に入院を続けるよりも、病状が落ち着いた段階で退院し、住み慣れた地域に戻って必要な医療を受けられるようにしたほうがよいとの判断だ。

 ところが、日本の医療機関は病院ごとの機能や役割分担が不明確で、緊急入院した患者が手術などを受ける「急性期病院」が多く、リハビリや長期療養のための病院は不足している。

 同地域に急性期病院が乱立する一方、回復期や慢性期の病院が少なく急性期病院を退院後、行き場が見つからず、入院が長引くことも珍しくない。結果として、ベッドが空かず救急患者を受け入れられない悪循環も生んできた。

 個々の病院が担う機能や役割を明確にすることで、回復期や慢性期の患者を受け入れる医療機関を整備しようというのである。

医療費抑制の狙いも


 医療費抑制の狙いもある。大きく改善する見込みがないのに、高機能病院に入院し続ける患者は少なくない。高度な治療を続ければ医療費はかさむ。高齢になれば複数の病気を患う人も増えるが、複数の病院を受診することで検査漬けとなり、医療費を押し上げている。機能再編で無駄な医療を排するというのだ。

 日本の病院の大半が民間であるがゆえの構造的な問題も横たわる。病院経営者としては従業員の雇用などを考え利益確保を優先せざるを得ず、患者集めのため病院規模の拡大に走りがちだ。

 病院規模が大きくなればベッド数も増え、高額な医療機器を導入することにもなる。専門家からは「ベッドや高額機器を遊ばせておくわけにはいかないので、入院日数の長期化や検査漬けを招きやすくなる」との指摘もある。病院機能再編は、こうした構造的な問題にメスを入れることでもある。

行政の権限強化必要


 だが、病院機能再編には問題が少なくない。国民会議は、都道府県に旗振り役を担わせようとしているが、機能や役割の変更を迫られる病院にとっては死活問題でもある。行政が主導したところで急に応じるとはかぎらない。

 消費税増税分を財源とする基金を新設し、再編を促すアイデアも出ているが簡単ではない。機能転換しても病院経営が安定することを具体的データで示すとともに、都道府県にそれなりの強制力を持たせることが必要だろう。

 最大の課題は、病院機能再編だけでは、患者が地域に戻って暮らすことはできないということだ。1人暮らしや高齢者のみの世帯が増える。「地域力」に過度に期待するわけにもいかない。

 総合的診療を行う「かかりつけ医」や介護との連携の必要性が指摘されるが、退院後の患者の日常生活の世話やケアを誰が行うのか。

 病院機能再編は不可避だが、退院後の生活の「青写真」までしっかり示せなければ、再編構想そのものが絵に描いた餅に終わる。