丸谷元人(ジャーナリスト・危機管理コンサルタント)

武器・インフラ輸出や資源ビジネスは要注意


 2015年は、海外で多くの日本人がテロの犠牲になった1年であった。そして今年に入っても、多くの日本企業や旅行者が頻繁に訪れ、これまで安全とされてきたトルコやインドネシアなどでもテロが続発している。5月には伊勢志摩サミットが開催され、4年後には東京五輪が控えるということもあり、これからの日本はかつてないほどのレベルでテロの脅威に晒されていくことになるだろう。

 そんななかで、現在もっとも危惧される第一が、これから海外に出ていく日本の企業戦士らの安全確保だ。なかでも、武器輸出三原則の緩和で可能となった防衛装備品輸出や資源関係、インフラ輸出分野はリスクが高く、これらに関わるビジネスマンは、とくに注意が必要だろう。

 巨額の利益を生み出す武器ビジネスは、各国の利権でもある。武器輸出業界は、米ロッキード・マーチンや英BAEシステムズ(以下、BAE社)などの米英系巨大企業が上位を占め、他にもロシアやフランス、ドイツ、中国などの大企業が続いている。これらの国々はいずれも強力な諜報機関を有しており、自国企業による巨額ビジネスを成功に導くため、官民共同でさまざまな「秘密工作」を行なっている。
平成19年3月31日、陸上自衛隊中央即応集団の編成祝賀式に黒い覆面姿で出席した特殊作戦群隊員=東京都練馬区の朝霞駐屯地
平成19年3月31日、陸上自衛隊中央即応集団の編成祝賀式に黒い覆面姿で出席した特殊作戦群隊員=東京都練馬区の朝霞駐屯地
 たとえば英BAE社は、過去にサウジアラビアにトルネード戦闘機などの英国製兵器を販売し、サウジ政府はそれらの支払いを原油で行なっていたが、『ロンドン・タイムズ』(2007年6月27日付)によると、その原油はまず石油メジャーのBPやシェルに流れ、そこで換金されたあと、同社がサウジ政府のために設置したイングランド銀行の秘密口座を経由してBAE社に支払われていたという。

 この秘密口座経由で支払われた金額は、22年間で合計430億ポンドに上るが、うち10億ポンド以上が、英国防省による署名付きで、サウジ諜報機関のボスであったバンダル王子に対して支払われている。ちなみに、BAE社がサウジやタンザニア、南アフリカなどで行なった過去の兵器ビジネスでは、賄賂なしに成立した取引はほとんどないとさえいわれている(『ディフェンス・インダストリー・デイリー』2013年1月20日付)。

 つまり、石油利権や金融機関が絡み、巨額の賄賂や裏工作なしでは動かないこの種の武器取引は、マフィアのビジネスに酷似する業界構造をもっており、すでにかなり成熟した各国の「シマ」に分かれているわけだが、日本企業がその現実を知らずに、最先端テクノロジーときめ細かいお客様サービスだけを武器にして、丸裸のままでそんな相手の「シマ」に乗り込んでいくことは、実は非常にリスクの高い冒険なのだということを認識する必要がある。また、経済成長の牽引力として日本政府が本腰をあげている「インフラ輸出」でも同様の「シマ」が存在する。

 たとえば、2015年11月のパリのテロ事件の直後に発生した、アフリカ・マリのホテルに対するテロリスト襲撃事件では、中国の国営大手鉄道会社の社長らが殺害されたが、彼らは同国政府から「兆単位の巨大鉄道プロジェクト」を受注していた。仏語しか話さない地域で発生したこの事件では、遠く離れたナイジェリア訛りの英語を話すテロリストたちが突然現れ、国連のナンバーの付いた車でホテルに侵入するという、高度に組織化された戦術が採られたが、似たような事が日本のインフラ系企業の社員に起こる可能性は決して低くないと考えるべきだろう。