河合雅司・産経新聞論説委員

 野田佳彦首相が「不退転の決意」で臨む社会保障と税の一体改革をめぐる議論が大詰めを迎えている。政府側は2010年代半ばまでに消費税を5%引き上げる必要性を強調するが、民主党内の抵抗は強い。

制度維持に毎年1兆円


 なぜ、野田政権は消費税増税を急ぐのだろうか。間もなく「団塊世代」がすべて65歳以上になるためだ。今後、高齢者数は毎年100万人ずつ増える。逆に生産年齢人口(15~64歳)は100万人ずつ減る。人口の多い世代が「社会の支え手」から「支えられる側」に回ることへの危機感である。

 高齢者の実数が増えるのだから、年金や医療、介護にかかる総費用も上昇する。当然、世代間の支え合いの仕組みである社会保障制度は維持が難しくなっていく。

 その影響はすでに表面化している。現行制度の維持だけで毎年1兆円超のペースで社会保障は膨らみ続けているのだ。こうした「自然増」の伸び幅は、さらに拡大が予想される。65歳以上の人口は2042(平成54)年に3863万人でピークを迎えるが、中でも増え続けるのは75歳以上だ。75歳以上の1人当たりの医療費は、74歳以下の世代の約5倍というデータもある。

サービスの拡充は困難


 政府は毎年、この自然増を賄う財源捻出に頭を痛めているが、悩みはこれだけではない。基礎年金の国庫負担を2分の1にするための財源確保も迫られている。こちらは毎年2・6兆円が必要だ。これまで国債や特別会計の積立金などの「埋蔵金」で穴埋めしてきたが、こうした無理はいつまでも続かない。自然増と基礎年金だけで苦労したのでは、少子化対策や若者などの雇用促進、貧困対策といった新たな課題に手が回るはずもない。「安定財源確保が不可避」とする理由がここにある。

 ところで消費税率を5%引き上げたら社会保障は拡充されるのだろうか。残念ながら「大きく」とはいかない。政府の案では、拡充には5%のうち1%を使うにすぎない。残る4%の2%分は自然増と基礎年金の国庫負担に回すが、これらは他の財源で賄ってきたものだ。それを消費税に置き換えるだけの話で、サービスを向上させるわけではない。

 さらに残る2%に至っては、社会保障以外にも使われる。1%は赤字国債の穴埋め、もう1%分は社会保障だけでなく公共事業や防衛、教育などにも回される。野田政権は消費税を社会保障目的税化するような説明を繰り返してきたが、明らかにごまかしが隠されている。

「中福祉中負担」は幻想

 
だからといって、消費税増税を先延ばしにすれば、赤字国債に頼ることは目に見えている。そうなったのでは、現在の高齢者が享受するサービスの将来世代へのツケ回しを続けるだけのことだ。勤労世代が激減することも考え合わせると、「支えられる側」の高齢者にも負担を求める消費税増税は本格的な少子高齢時代に向けた“備え”の意味合いもある。

 しかも、国債乱発という安易な手法はすでに行き詰まりを見せている。日本の借金残高は最悪水準にあり、財政再建を怠ればどうなるかはヨーロッパが警告している。

 「増税よりも、行政の無駄の排除が先だ」という主張もよく耳にする。だが、これは往々にして増税先送りの方便として使われてきたフレーズだ。増税前に歳出のスリム化を徹底するのは最低限の前提だが、歳出削減だけでは必要となる社会保障費を賄うことはできない。

 国の予算のうち社会保障はすでに3割を占める。世界で最も少子高齢化が進む日本にとって、社会保障を充実させながら負担はそこそこに抑えるという「中福祉中負担」は幻想にすぎない。それなりの社会保障水準を求めるのならば「超高負担」を受け入れなければならない。

 消費税を多少上げたところで焼け石に水なのである。民主党は社会保障改革で負担増策を次々と先送りしサービス拡充に必死になっているが、増税も負担増もやむを得ないというところまで日本は追い込まれていると認識すべきなのだ。拡充は本当に必要なところに限定するしかないのである。

 自助自立を社会の基本にしながら、身の丈に合った社会保障制度を目指すことが求められている。