長内厚(早稲田大学ビジネススクール准教授)

予想もしない家電が生まれるワケ


 全く新しい製品や事業を興すというチャレンジには当然当たりはずれが伴う。日本は高度成長期から自動車産業とともに家電産業が製造業をけん引してきた。自動車開発は法律上の規制が厳しく自由度がない上、内燃機関を用いて四輪の車輪を走らせるという自動車の基本構造はこの100年ほとんど変化がない。それに比べると、家電産業は予想もしないような新しい製品カテゴリーが次々と生まれてきた。手塚治虫の漫画や宇宙戦艦ヤマトでは、車がチューブの中を走り、宇宙船がはるかかなたの銀河まで旅をする未来予想図が描かれてきたが、こうした空想の世界の中でもほとんどの場合、テレビモニターはブラウン管と思しき奥行きのたっぷりある画面でしかない。21世紀の現在、実際には車はチューブを走っていないし、銀河を超えた宇宙旅行は実現していない。しかし、当時の漫画家やSF作家が思い浮かばなかったような、薄さ1cm以下の大型テレビは実現し、日本の多くの家庭に入り込んでいる。
 家電産業においては、新しいアイデアを実現する技術を開発することによって、こうした思いもよらないような新しいアイデアの実現が無限の可能性で存在している。しかし、無限の可能性があるからこそ、「なにが当たる製品なのか」を予測することは難しい。こうした、新たな技術をどのような製品アイデアに活かすか、さらにそれを企業の収益に結びつけるには、ある一定の確率で失敗するというリスクを覚悟して、当たりはずれを許容しなければならない。

 筆者は大学の講義で、こうした当たりはずれを前提として、はずれを許容する経営スタイルを「効果の経営」と呼んでいる。一方、多くの公共財や食品のように製品そのものの変化が少ない産業においては、ムダを排除し、できる限り効率よく大量に生産、販売し、市場シェアを高めることで企業は収益化を図ろうとする。こうしたムダを排除する経営を「効率の経営」と呼んでいる。すなわち、効果を追求しようとすれば、効率は下がり、効率を追求しようとすれば、効果が下がる、という関係にある。これは、ハーバードビジネススクールの故アバナシー教授が「生産性のジレンマ」と呼んだ現象である。

 「効果の経営」を追求するにしても、無尽蔵にムダを許容していては企業経営は成り立たない。ある程度、ムダの範囲を制限してあげる必要があり、それが経営者の役割である。つまり、「効果の経営」とは、より正確に言うのであれば、計画的にムダを許容する経営スタイルといってもいい。