大西宏(ビジネスラボ代表取締役)

 日本も捨てたものではない、国内でそれほど名が知られていないけれど、高い技術で世界でトップの企業がある。日本はまだまだ技術力が高いという話を聞くと複雑な思いをします。挙句のはてはゼロ戦は世界一の技術だったと溜飲を下げる人がおられますが、まったく時代に逆行する発想ではないかと感じてしまいます。

再び日本の空を飛んだ零戦(零式艦上戦闘機)=1月27日、鹿児島県鹿屋市の海上自衛隊鹿屋基地
再び日本の空を飛んだ零戦
(零式艦上戦闘機)
=1月27日、鹿児島県鹿屋市の
海上自衛隊鹿屋基地
 もちろんグローバル市場で活躍する日本の企業が存在することは素晴らしいことです。それぞれの企業は素晴らしくとも、広がりが薄く、点在している感が強いのが残念なところです。しかも、過去の日本産業が高い競争力を持っていた時代と比べれば、やはりそれぞれが小粒になってしまった感が否めません。

 日本は、かつて、ブラウン管テレビでは世界の半分のシェアを持っていたにもかかわらず、液晶テレビの時代になって、どんどんシェアを落とし、生き延びることができるかどうかにまで追いやられています。半導体もそうです。ウォークマン、携帯電話・・・イノベーションが起こるたびに世界での日本の競争力が落ちてきました。日本は、それだけ産業の新陳代謝を生むダイナミックなメカニズムをもっていなかったことになります。

 先に触れたゼロ戦も同じです。ゼロ戦がその素晴らしい能力で恐れられた時期もありました。しかし、研究しつくされ、対策を練られ、最後は惨めに撃ち落とされていく標的でしかなかったのです。職人芸に頼り、戦略やシステム発想に欠け、結局は進化させることができなかったというのがゼロ戦の教訓でした。

 さて韓国貿易協会国際貿易研究院が発表した面白い報告が紹介されています。2014年に世界首位の製品数で、トップは中国で1610品目、ドイツ(700品目)、米国(553品目)、イタリア(222品目)、日本(172品目)の順だったと朝鮮日報が伝えています。韓国は前年から1ランクダウンの13位だったようです。


 また中央日報によると「世界1位製品最多輩出国」の中国は、10年間にわたり世界1位をキープしており、しかもこの10年で世界トップの品目を678個も増やしてきています。しかも韓国が強い産業分野を蝕んできており、韓国は、開発途上国型製品から、先進国型製品に主に力を注ぐべきだという主張も出てきているといいます。


 さて、市場は小さくとも、ユニークで、高い技術力を持った分野で存在感を示すグローバルニッチをめざせ、つまり小粒でもぴりりと効く企業を日本で生み出し、育てようといのは正しい戦略だと思います。そうでなければコモディティ市場で価格競争にまきこまれてしまいます。しかし、ニッチだということは市場規模が小さく、イタリアのように、よほど多くのグローバルニッチ企業を数多く生み出し、集積させないと日本の経済を支えるには限界がでてきます。

 日経がそういった素晴らしいグローバルニッチ企業を紹介していますが、こういった企業をどんどん育てる仕組みをもつことが日本の成長戦略の軸になってくると考えるのが筋でしょう。もちろん紹介されている企業以外でも、一眼レフカメラとか、CMOSセンサー、内視鏡などの分野で世界でトップの地位を保ってはいますが、まだまだ集積不足であることが否めません。

 しかし、アベノミクスは効果を急ぎすぎ、金融政策の特効薬と、大企業優先の政策をとってしまったために、効果があがらず、日本の経済は再び失速しはじめています。

 いくら大企業の業績があがったとしても、雇用の7割を占める中小企業の業績が上がらなければ、経済の好循環は生まれません。今から思えばアベノミクスは金融政策が実態経済をどう活性化できるかの壮大な実験でしたが、まったく効果が波及せず、「常識通りの結果」でした。「トリクルダウン」という言葉も今となっては懐かしいだけです。

 グローバル化経済から逃れることができない以上、グローバル市場で競争力を高めるしか、日本の存在感も高まってきません。そのためには、国際競争力を持つ中小企業を生み出し、育てること、もうひとつはいずれかの産業のプラットフォームを日本が主導する頂上作戦の両輪が日本の戦略になってくるはずです。

 安倍内閣でも、安倍内閣でなくともいいのですが、目先の政策をとらずに、時間を要しても、再度日本の経済産業政策の焦点を絞り、まずは、中小企業の生産性を高め、たとえ小さな市場でも世界のトップとして存在感のある企業をどう生み出すか、また育てるのかの原点にもう一度立ち戻るべきではないかと強く感じます。 
(「大西 宏のマーケティング・エッセンス」 2016年2月15日分を転載)