河合雅司・産経新聞論説委員

 急速に進む少子高齢化は、日本の「安全・安心」を脅かす。

 例えば農業だ。世界人口が70億人を数え、食料の安定確保はいまや各国政府にとって最重要課題の一つだ。国際競争は厳しさを増してきており、食料自給率の引き上げは国家の安全保障にもつながる。

 ところが、農林水産省が発表した平成22年の「農林業センサス」によると、農業就業人口は5年前の前回調査に比べ74万7千人も減り、約261万人となった。22・3%の下落だ。2年は482万人だから、この20年間で半減した計算である。

 要因は、これまで農業を引っ張ってきた昭和1けた生まれが70代後半となり、引退年齢を迎えたことにある。平均年齢は65・8歳。7年の59・1歳から6・7歳も上昇した。世代交代が進んでいないのである。

 もちろん、農業就業人口の減少が、ただちに農業の衰退を意味するわけではない。農業法人や若い世代が引き継ぎ、規模を拡大するケースだってある。

 だが、耕作放棄地の増加は止まらず、前回調査より1万ヘクタール増え40万ヘクタールに達した。調査結果以上に荒れ地が広がっているとの見方もある。

自衛隊員の確保も困難


 日本は今後急速に子供数が減少していく。人口規模の大きい「団塊ジュニア世代」(昭和46~49年生まれ)が出産期を過ぎると、母親となる女性数が減るためだ。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、現在約110万人の年間出生数が、2030(平成42)年には69万5千人、2055(同67)年には45・7千人まで減る。ここまで減ったのでは、農業に限らず、どの産業でも後継者不足となるだろう。

 自衛隊員や警察官、消防士など、若い力が求められる職種も例外ではない。技術革新や機械化によって対応できる部分もあるだろうが、すべて代替させるわけにはいかない。必要な規模を維持できなければ組織として機能せず、国防や治安に重大な影響をもたらす。それは日本社会が成り立たなくなることでもある。少子高齢問題とは、安全保障や治安上の問題でもあることを認識しなければならない。

 子供数の激減は、経済を引っ張ってきた技術力の陰りにつながり、産業の競争力をそぐ。企業で培われてきた知識や技能の継承が途絶えかねないからだ。

 団塊世代の大量退職時代を迎え、すでにそうした不安は現実のものになりつつある。とりわけ懸念されるのが製造業だ。石油危機や急激な円高の際に、採用抑制やリストラをしてきた企業は少なくない。中堅技術者が少ない年齢構成のゆがみが生じ、知識や技能の継承が潤滑に進んでこなかった。

 非正規雇用化や生産拠点の海外移転も進めており、若い技術者がさらに減れば、継承しようにもできなくなる。技術力の低下は商品開発力に直結する。

生き残りかけ絞り込め


 団塊世代の大量退職で、労働力人口激減が始まった。いま就職期を迎えている世代の年間出生数は120万人程度で、270万人近かった団塊世代の半分にも満たない。

 政府の推計によると、女性や高齢者など働く意欲のある人の就業が進まなければ、労働力人口は今後20年で1千万人近く減り、2050(同62)年には現在の3分の2弱まで落ち込むと予測されている。

 労働力人口が減れば経済規模も縮小する。後継者不足による影響に追い打ちをかけるであろう。

 子供が多く生まれてこない以上、すべての産業に若い人材を供給し続けることは無理となる。ならば、どう対応すればよいのだろうか。日本がどの産業分野で生き残るのか絞り込み、国際分業を進めることだ。自衛隊員や警察官などについては、国家運営に必要な人数をもう一度洗い直し、長期計画で採用・育成を考えることが求められよう。

 本当に必要な分野に、世界に通用する人材を輩出できるようにするためには、教育の在り方も含め、これまでの「常識」を変えてみることだ。少ない若者で次代の日本をどう支えるのか、国家としての戦略が求められる。