川口マーン惠美(作家、シュトゥットガルト在住)

ヨーロッパのクリスマスはお正月と瓜二つ


 去年のクリスマスはロンドンで過ごした。普段バラバラになっている家族が1年に一度集まるのが、ヨーロッパのクリスマスだ。家族のお祝いなので、24日の夜、町は人影がまばらになり、それが25日いっぱい続く。日本の大晦日(おおみそか)から元旦の風景と瓜二つだ。

 日本のお正月とヨーロッパのクリスマスは、特別なお料理やお菓子を用意するところも、家や町をきれいに飾り付けるところも、カード(年賀状)を出すところも、少し神妙な気分になるところも、来る一年の抱負を立てるところも同じだ。そして、このときだけ多くの人が教会や神社に行く。

 現在、西ヨーロッパでは、宗教の意味は限りなく小さくなってしまっているが、それでも長年の伝統は侮れない。毎年12月24日になると、どんなに不信心な人の心の中でも、クリスマスは宗教的な匂いの漂う伝統行事として、突然、息を吹き返す。それに比して日本人のクリスマスがパーティーとプレゼントで終始するのは、もちろん、これが伝統とも宗教とも関係がないからだ。その証拠に、ヨーロッパでは25日が本番で、1年でいちばん大切な祝日なのに、日本では宴はすでに終わり、皆、普通に働いている。

 一方、日本のクリスマスに当たるのは何かというと、ヨーロッパの大晦日だ。ここでの大晦日はたんなるイベントで、元旦は1年の最初の日でしかない。大晦日はパーティーで騒ぎ、零時には皆が外へ出て打ち上げ花火に熱中する。その騒音のなか、家の中でも戸外でも、人びとはシャンペンのグラスを片手に、手当たり次第ハグしながら「ハッピー・ニュー・イヤー!」

 当然、翌日は多くの人が二日酔いで、街は花火のカスだらけ。清々しい気持ちにはならない。片や日本では、その日、普段不信心な人も初日の出を拝んだり、初詣に赴いたりするのである。

死の街ロンドン!


 さて、ロンドンでは、24日の朝から長女と私が買い物班になり、飲み物やお惣菜、紙のテーブルクロスなどを調達し、ホテルの部屋をクリスマス団欒用に改造した。夕方6時には、ほとんどの店は閉まり、通る車さえまばら。10時ごろには人っ子一人いなくなる。部屋のなかだけが煌々と明るく、暖かい。外が雪ならもっとよかったが、残念ながら暖冬。
 クリスマスというとプレゼント。イギリスでは日本と同じく、24日の夜半にサンタクロースが来ることになっているが、ドイツの風習では、プレゼントは24日の夕方にクリストキント(天使のようなかわいい容貌の生き物)が鈴を鳴らしながら運んできて、そっとクリスマスツリーの下に置いていく(ということになっている)。

 わが家ではすでに娘たちは大人なので、クリストキントは来ず、プレゼントはそれぞれが持ち寄るだけだ。ただ、どんなものでもすべて別個に包むという努力は皆が惜しまない。これにより、プレゼントの嵩(かさ)が劇的に増える(父親は不信心、母親は日本人なので、わが家のクリスマスはどうしても日本のそれに近くなる)。それを、宴もたけなわのころ、「これ、私の?」などといいながら順番に開けていくのはことのほか楽しい。年齢にも中身にも関係なく、人が開けるのを見ているだけでワクワク!

 そのささやかなクリスマスパーティーのあいだに、ロンドンに住んでいる次女が何度か警告を発した。「明日は交通機関がすべて止まる。今夜のうちに移動手段を手配しておかないと、飛行機、乗り遅れるわよ」。翌日、長女はヒースロー空港から、三女はスタンステッド空港から、それぞれロンドンを離れることになっていた。