河合雅司(産経新聞論説委員)

 日本が長寿大国であることを証明する指標の一つに平均寿命がある。厚生労働省が7月末に発表した「簡易生命表」によると、平成22年の日本人の平均寿命は、女性が前年より0・05歳縮んだものの86・39歳で26年連続の世界一を記録した。男性は79・64歳。5年連続で過去最高を更新し、世界第4位である。

 平均寿命は誤解されがちだが、その年に生まれた子供が平均して何歳まで生きられるかを予測した値だ。戦後間もない昭和22年は女性53・96歳、男性50・06歳。60年余りで30歳ほど延びた計算である。

 平均寿命が延びた要因はいろいろあるが、乳幼児の死亡率や若者を死に追いやっていた結核などが激減したことが大きい。栄養状態や医療の進歩、衛生、さらには平均所得など生活水準が向上したためだ。社会が豊かになったことが、現在の少子高齢化の危機につながっているというのは何とも皮肉な話である。

長く続く高齢生活


 平均寿命が延びたということは、言い換えれば、高齢者になってからの人生が長くなったということである。平成22年生まれの子供が90歳まで生きる割合は男性が22・0%、女性に至っては実に46・1%だ。近い将来、100歳を超す女性が珍しくなくなるとの予測もある。

 つまり、高齢者になってからなお30年もの歳月を過ごすのである。一方で、非婚化や少子化が同時進行するため、頼りになる家族や親族がいない、もしくは少ない高齢者も大幅に増えるだろう。

 そうなれば最大の課題となるのが、老後の生活費をどう準備するかだ。老後が長くなったということは、人生の中で働かない期間が増えることをも意味するからだ。

 老後の保障といえば年金である。多くの人は年金収入をあてにして老後の生活設計を考えているだろう。しかし、少子高齢時代においては年金への過度の期待は禁物だ。

 現行の年金制度は現役世代が高齢者に「仕送り」する仕組みだからだ。平均寿命が短かった時代は、年金受給前に多くの人が亡くなったから年金財政への心配は少なかったが、いまや現役世代は減り、受け手は激増している。これでは、制度がうまく機能するはずがない。

 現行水準の給付を維持しようとすれば、現役世代に過重の負担を求めることになる。逆に、現役世代の負担を適正水準でとどめれば、老後の生活資金として十分な額を確保できないだろう。これまで政府は税金投入することで何とか制度破綻を防いできたが、それにも限界がある。つじつま合わせを続けようとすれば、やがて国家財政がパンクする。

自ら老後生活守れ


 民主党は一定額以上の給付を約束する「最低保障年金」を掲げている。基礎年金の支給水準を上げるべきだとの提言も多いが、高齢者の激増を考えれば、全体を底上げしようとするアイデアは現実的とはいえない。むしろ、高所得者などの支給額を減らす選択に向かわざるを得ないのではないのか。

 そもそも、長寿化に伴って老後の生活費がかさむのは、誰にも降りかかる課題である。それを、すべて年金や福祉施策で解決しようとするのは無理がある。少子高齢時代の年金は老後を支える主柱ではあるが、すべてを保障する制度とはなり得ないと覚悟すべきだ。自助自立を基本として、自ら老後の生活を守ることを考えなければならない。政府に多くは期待できないのである。

 では、どうすればよいのか。まずは社会全体で働き方を見直すことだ。働く意思のある人が年齢に関係なく働ける社会を構築すれば、人生の中で働かない期間を短くすることができる。現役時代の蓄えを少しでも増やすことも考えるべきだ。少子高齢時代であっても、ビジネスモデルを工夫することで賃金水準を上げることは不可能ではないはずだ。この場合、個々人が職能を高めるための努力が不可欠となる。お金をあまりかけずに生きがいを見いだすことも大事であろう。

 長い老後を乗り切るには、現役時代にしっかりとした人生設計を描いて準備しておくことが、これまで以上に求められるのである。