河合雅司(産経新聞論説委員)

3割が地方定住希望


 政府が「まち・ひと・しごと創生本部」を創設し、地方活性化に向けた取り組みをスタートさせた。

 人口減少を止める特効薬は存在しない。既存の発想にとらわれず広範な政策を組み合わさなければ、東京一極集中も、地方の「消滅」も止まらない。まずは地域の実情に耳を傾け、民間の英知を集めることである。

 そこで小欄も具体的なアイデアを出すことにしたい。

 地方の生き残りに向けた課題は多々あるが、(1)地方における若者雇用の創出(2)増大する東京圏の高齢者の暮らしの確保-に集約できよう。

 これを同時に解決するには東京圏の高齢者が地方に移住することである。大量移住となれば新たなサービス需要が生まれ、ビジネスチャンスにつながる。

 内閣府が発表した「農山漁村に関する世論調査」(今年6月)によれば、都市住民の31・6%が「農山漁村地域に定住したい」との願望を抱いている。60代は33・8%、20代は38・7%に上る。
 だが、いざ行動に移すとなると、尻込みする人は少なくない。築いてきた友人関係は途切れるし、金銭面での懸念もある。冠婚葬祭など移住先の“しきたり”になじめるか不安も大きい。

期間限定の移住構想


 こうした懸念を払拭するには、期間限定の“お客さん”として移住することである。そこで、長期滞在型リゾートと大学キャンパスとの融合を提案したい。

 対象はリタイアした元気な高齢者だ。“大学生”に戻ったつもりで、知的好奇心を満たし、サークル活動を楽しむといったキャンパスライフを満喫するのである。

 既存の大学のように校舎があるわけではなく、シルバータウンに大学の出前授業がやってくるイメージである。受験は不要で、関心のある授業だけを受講する。趣味やボランティア、アルバイトに精を出してもよい。

 お手本は米国にある。元気なうちは学生生活をエンジョイし、体が弱ってきたらキャンパス内にある大学病院直結の分院や介護施設で最期まで不安なく暮らせる「大学連携型CCRC」と呼ばれるコミュニティーが各地に広がっているのだ。これを日本流にアレンジするのである。

 都会の自宅は定期借家権を使って5年契約で貸し、移住先に家を借りる。契約が終了した時点で、都会の自宅に戻るか地方に住み続けるかを選択する。これはNPO法人「ワープステイ推進協議会」が提唱している。“下宿生”として地方大学に通うと考えれば分かりやすい。

 移住者が借りる家は、おしゃれな街並みを大学キャンパス内に新たに造成し“学生寮”のようにしてもよい。地方都市の市街地をキャンパスに見立て、空き家となった古民家を再利用する方法もあり得る。若者たちが通うキャンパスと隣接すれば、世代を超えた交流も生まれよう。

 移住者がスムーズに暮らしに溶け込めるよう大学事務局は学級編成をする。自治体もガイド役を置き地元の人々との交流の輪を用意する。

 授業は教授陣任せでなく、移住者が長年培ってきた経験を生かして互いに教え合う「全員先生」方式とし、大学公認で高齢者のみの運動部や文化サークルも結成する。若い学生たちとの交流戦などを開催すればさらに楽しい。

市場としての魅力も


 候補地は大都市圏から新幹線や特急電車で1時間半程度の場所とすることだ。大都市圏に気軽に戻れる距離であれば、親類や旧友と疎遠にならずに済み、移住を決断しやすいだろう。医療面のサポートも不可欠だ。拠点病院や医師会、介護施設と連携し、いざというときに備える。

 まとまった人数の高齢者が入れ替わりで都会から移住してくるとなれば、マーケットとしての魅力も高まる。

 高齢者向け商品開発の市場調査もやりやすく、介護ロボットメーカーなど新たな産業集積地となる可能性もある。定員割れに悩む大学にとっても、安定的な学生獲得につながる。結果として若者の働き口ができ、若者の流出防止だけでなく、都会からも戻る好循環が生まれる。

 地方創生の成否は縦割り行政の排除にかかっているが、官僚の縄張り争いは相変わらずだ。

 こうした悪弊を打ち破るためにも、複数の省庁にまたがるモデル事業を展開し、“成功体験”を1つずつ積むことから始めるべきである。