小林信也(スポーツライター)

 「女子マラソンの五輪代表選考が、また揉めた」と話題になって約一カ月。騒動の主ともなった福士加代子も無事代表に選ばれ、とくに混乱もなくリオ五輪の女子マラソン代表は伊藤舞(大塚製薬)、福士加代子(ワコール)、田中智美(第一生命)の三人で決定した。

 私は先週の名古屋ウィメンズマラソンの前、あるラジオ番組でこう発言した。
「また揉めているというけれど、まだ何も揉めていないし、たぶん揉めないと思います」
 なぜなら、福士が名古屋への出場を取りやめて余計なミソをつける(途中棄権や、ひどいタイム、惨敗など)の心配がなくなった上、福士が大阪で出したタイムを超える可能性のある選手はほとんどいない、ミラクルが起こってもせいぜいひとりと見るのが自然に思えたからだ。

名古屋ウィメンズマラソン 陸上連盟の会見
尾懸貢日本陸連専務理事(右)と酒井勝充日本陸蓮強化副委員長(左)
=ナゴヤドーム(撮影・榎本雅弘)
名古屋ウィメンズマラソン 陸上連盟の会見 尾懸貢日本陸連専務理事(右)と酒井勝充日本陸蓮強化副委員長(左) =ナゴヤドーム(撮影・榎本雅弘)
 実際、名古屋のレースが終わってみれば、とくに揉める要素もなく、順当に三人が浮かび上がった。今回の騒動の主は陸連ではなかった。マッチポンプというのか、福士加代子側が火を点け、そして自ら火を消して、何事もなく終わったというのが、クールに見た今回の騒動だ。

 何もなかったのに大騒ぎになったのは、福士側の上げた狼煙に、マスメディアもネットもこぞって乗っかったからだ。そこには「陸連に対する強い不信と不満」が根強くあるからだろう。福士を指導するコーチにもその気持ちが痛いほど感じられたし、「何かあってからでは遅すぎる」という切実な葛藤と、日ごろから積み重なる陸連へのフラストレーションがあったからだろう。

 女子マラソンの代表選考は、松野明美(バルセロナ五輪)の落選に象徴されるように、幾度となく多くの人が「納得のいかない」結果で物議を醸してきた。記憶に新しいのはほぼ一年前、2015世界陸上・北京大会の代表に当然選ばれると見られ、本人もほぼ確信し朗報を待っていただろう田中智美が選考から洩れた事件だ。

 選考の対象となった3レース中、最初の横浜で唯一優勝を飾ったのが田中智美だった。多くの関係者やファンが「日本人1位」よりも田中の「優勝」を重く評価していた。ところが、蓋を開けると選ばれたのは大阪で3位の重友梨佐、名古屋で3位の前田彩里、同4位の伊藤舞だった。

 日本の女子マラソンの草分けともいえる存在でいまはスポーツジャーナリストの増田明美さんが、記者会見で厳しく日本陸連を追求した。シドニー五輪の金メダリスト・高橋尚子さんも批判の声を上げた。