景気条項:自公政権の増税判断のミス


 自民公明政権、財務省や一部の学者は2014年4月の消費税8%への引きあげ前に『消費増税は景気に悪影響がない。一時的な反動減はあってもすぐ元に戻る。なぜなら増税で社会保障が安定化するので消費を下ざさえする非ケインズ効果が働くから。』としていた。この非ケインズ効果とは、われわれの常識とは正反対に、財政削減や増税が景気にプラスの影響を与えるとする現象である。ただし、過去のほんの一時期に北欧の小国でそういう現象が起きたことは確かだが、本当に日本でそういう効果がおきる可能性があるのかどうかは極めて疑問だ。実際に、当の財務省官僚に「今後の日本で非ケインズ効果がでると思いますか?」と党内の部門会議などでたずねても、「そうだ」という明快な返事がもどってきたことはない。彼らも保身に巧みなので、表の場ではしっぽをつかまれないようにしていて、目の届かないところで自分で考える力のない政治家たちに盛んに振り付けていたことは明らかだ。

 私は6年前の私自身の参議院選挙でも、菅直人総理が、なんら党内手続なしにいきなり「消費税の増税が必要です。」と発言し、増税に前のめりになる中、「景気が悪い状況での消費税増税は経済に大ダメージを与える」と反対を明言した。暑い夏の選挙戦の中で有権者に訴えかけたときから、私の考えはまったく変わらない。給料が伸びない中での増税は悪であることは現在のヨーロッパの例を見るまでもない。

 消費増税法には成立当時、通称「景気(判断)条項」があった。これは民主党政権時、党内の法案審議のなかで、「デフレ不況から脱却していない今はまだ消費増税をすべきではない」と考えたわれわれが、当時の前原誠司政調会長に直接申し入れるなどして採用させたものだ。

 その内容は、「一年間の名目経済成長率で3%程度かつ実質経済成長率で2%程度の経済成長を目指し経済運営を行う」ことと、消費増税を決定する前に「経済状況などを総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」ものだ。つまり、景気がよくないと判断される場合には、増税を見送るという仕組みだった。

 この数値目標は、名目成長が実質成長を上回るという形にもなっている。つまり、デフレ脱却が増税の前提となっていた。実は、われわれが党内で提案したときには、この経済成長率を満たすことを「条件」にはじめて増税できるとするきわめて拘束力が強いものだった。その後、当時の政府・執行部の反対で、「条件」ではなく、「努力目標」になってしまったが、この「景気条項」が本来の趣旨に沿ってその当時の政権担当者によって運用されれば、デフレ不況下での増税は避けることができたはずだった。このことは、その後2014年11月18日に行われた安倍総理の解散表明記者会見で「社会保障・税一体改革法では、経済状況を見て消費税引き上げの是非を判断するとされています。今回はこの『景気判断条項』に基づいて、延期の判断をいたしました。」としていることでも判る。増税を停止することができる法的効力を持つことから、マスコミからは「増税派への時限爆弾」と言われたこともあるが、まさにその名称通りの働きを前回果たしたことになる。

 この自公民三党協議でも、現在の私の消費税再増税凍結の提案に対してと同様に与党からの反発が厳しかった。「法律で時の政権の判断を縛るべきではない」というのが自民党側からの反論だった。しかしそれは建前であり、「経済の状況がどうであろうと増税をしたい」というのが本音だったのだろう。残念だがわれわれの力が及ばなかったことはお詫びするしかない。しかし2013年秋、そして2014年秋、総理官邸にエコノミスト、学者、団体関連の代表などが集められて行われた、増税の賛否をヒアリングする「消費増税点検会合」が開かれたのも、この「景気条項」の縛りがあったからである。

 ノーベル経済学賞学者であるクルーグマンもこう指摘している。彼は、2014年11月、マスコミによるインタビューに答えて「私としては『インフレ率が2%程度に達してから引き上げる』といった条件付きの延期の方が望ましいと考えるが、そうした可能性がないことも理解している」と述べた。彼が述べたこの「条件」こそが、まさにわれわれが提案した「景気条項」の本来の姿である。

 しかし、2015年3月31日、税制改正法が可決成立し、われわれが心血を注いだ「景気条項」は廃止されてしまった。それにしても安倍総理はなぜ「景気条項」を霞が関の要求に屈して唯々諾々と削除してしまったのだろうか。「景気条項」があったからこそ、霞ヶ関に対して交渉力を維持できたのではなかったか。『いつでも増税を止められるんだぞ。』という脅しがなければ相手に言うことを聞かせることができなくなるはずだ。今、野党側からは、まさに野党5党の共闘によって、政府与党に対して『景気条項』の復活要求をすべきだ。復活すれば今の消費不況では消費再増税は中止するしかなくなる。これに応じなければ自公民三党合意を与党が破棄したことが再度明らかになる。民主党は三党合意が守られないのだから、晴れて堂々と増税に反対できることになる。

 なお、「消費増税を決定したのは民主党」と宣伝なさる与党びいきの方がいるが、2012年6月15日の自公民三党協議合意文書「税関係協議結果」をご覧いただければ、増税は「その時の政権が判断すること」と明記してある。つまり前回の消費増税は「自公政権が引き上げの判断を下した」ということだ。実際に安倍総理も2015年2月5日の参議院予算委員会での私の質問に対して、「今回の消費税の引上げでございますが、もちろん、最終的には私の判断で引上げを行ったところでございますが、(以下略)」と答えている。