財源は「自然増収」でまかなえる


 皆さん方の中には、消費税再増税をしなくて一体、国の財源は大丈夫なのかと心配される方もいるだろう。安心していただきたい。日本経済の中で調子のいい分野がある。それは企業、会社である。そこからの納税は極めて順調である。

 2年前の消費増税はサラリーマンの懐を直撃した。これは先にも述べたように、消費税が最終的には消費者が負担する税だからである。一方で企業にはサラリーマンと比較すればダメージは小さかった。それどころか、金融緩和の副産物である円安ドル高はわが国企業に大きな円安メリットをもたらした。一時は1ドルが80円を切るほどの円高が、120円となった。実に5割も円安になったのである。これで輸出ができる企業、海外に子会社があるような大企業は好調となった。例を挙げれば自動車産業だ。2015年度上半期は、自動車産業大手が相次ぎ最高益を記録した。景気が回復しつつある北米市場が好調であることと同時に円安効果も影響があった。トヨタの2016年3月期の連結営業利益は過去最高の2兆8千億円となる見通しだ。少し以前の試算になるがSMBC日興証券の予測によれば東証一部上場企業の今年度経常利益は28.9兆円。これは史上最高益を昨年度に続き更新することになる。実際には、世界経済の混乱の影響が出るだろうが、国内の消費の動きに比べれば、ほぼ史上最高益に近い状態にある法人企業分野は経済的に恵まれていると表現して問題はないだろう。

 だからまず財源は、「好景気の企業からの法人税」などの税収を中心とした、いわゆる「自然増収」を頼りにすべきである。安倍総理がよく「10兆円国債の新規発行額を減らした」と発言するが、この約半分が消費増税分、のこり半分が自然増収分だと考えられる。法人税は基本的に赤字企業は納税しない。景気回復に伴う大手企業の業績回復で法人税収は経済成長率をはるかに超えて大幅に増加するのだ。

 実際に、政府の試算によると、これまで消費税率を10%にすることが赤字半減の大前提だったが、円安、株高、大手企業の業績回復で法人税収は大幅に増加する見込みとなることから、いわゆるプライマリーバランス(財政の基礎的収支)は消費増税延期でも赤字半減が達成可能だという。もちろん中国経済の急減速、新興国経済の不振は今後、わが国の輸出に影をおとすことだろう。世界の景気が回復しないことは政府の責任ではないが、わが国のGDPにしめる比率が約17%である輸出をはるかに超え約56%を占める生活者の消費が消費増税で打撃を受けている今、政府とるべき経済政策の第一は、まず消費税再増税をとめるアナウンスではないだろうか。

逆走する経済政策


 金融緩和は成功したが、消費増税が今の「消費不況」の原因となっていることを述べた。ここからは公平の観点から現政権の政策は誤りであり、政策を転換して消費不況対策として「国民のための金融緩和」を行わなければならないことを述べたい。

 ここまで説明してきたように、「企業は調子がいいが、消費者のふところ具合が問題」というのが今のわが国の経済だ。こういう状況でとるべき政策はただ一つ、「所得の再分配」だ。つまり企業から法人税、社長や役員のみなさんから所得税としておさめていただいた税金を、教育、子育て、社会保障といったわれわれサラリーマン・消費者にとって役に立つ分野に活かすことが、景気回復の手段としても絶対に必要となる。

 しかしアベノミクスの欠陥は体系だった所得再分配政策がないことだ。私を含めて何回も国会質疑で取り上げているはずだが、政府は所得再分配にはかなり否定的だ。 それらしい政策も最近少し見られるようになったが、残念ながらすべてが付け焼き刃だ。

 現政権は法人実効税率を現行の32.11%(標準税率)から2%強引き下げて20%台とすることを決めた。「法人税20%台は世界標準だ。世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します。」と胸をはられても、一方で、われわれ消費者に対しては消費税増税というのでは困る。しかし、それが実際の政府与党の方針だ。これはどう考えてもサラリーマン・消費者にとっては不公平なやり方だ。改めなければならない。消費税再増税をとめることはその第一歩ともなる。同時に「所得再分配政策」(教育・子育てや給付金、賃上げや低所得者層への直接補助など)が必須だ。

 もう一つの財源は国債発行だ。「国民のための金融緩和」を実現しなければならない。日銀のいわゆる「マイナス金利」政策や、国債金利がマイナスになったことなどを財政破綻などとかんちがいしている人も多い。しかし、実際は、「国がほとんど金利をつけなくても借金できるようになった」わけである。日本経済が異常な状態であることにはかわりないが、起きた現象でいうならば、いくら高い金利をつけても国債が売れなくなってしまう状態である財政破綻とはまったく正反対のことだ。日本経済の根本的欠陥は、実は企業が、能力増強などの設備投資も従業員への賃上げもせずお金をただ貯蓄に回していることなのだ。いわゆる内部留保がどんどん貯まる現象がこれの結果だ。このままだと国内で誰もカネを使わないので、政府は国債を発行して銀行を通じてカネを吸い上げ、景気対策などで民間のかわりにカネを使って、国内の需要を下支えしている。政府が財政赤字になったのはその結果。企業が積極的にカネを使わないという構造があるかぎり、政府が国債を発行しないと、日本経済自体の回転自体が止まってしまう。例えば、企業が銀行に預金しても、貸出先がなければ利息が付かなくなってしまう。

 今起きていることは、世界経済の混乱によるリスク回避先として円が買われていること、つまり国債が投資家から大人気になっているという意味だ。その結果、国債がマイナス金利となった。ここは日本政府としてはありがたく国債を新たに発行し、これまでどおり日銀に市場から買い上げてもらって長期間保有してもらうのがトレンドにのった対処法だ。日銀が持っている間に償還期限を迎えた国債は、政府から日銀に元本が支払われる。日銀はいくら利益をあげても法人税は取られない。そのかわり、日銀は広い意味で政府の一員なので最終的には政府が日銀に支払ったカネはその95%が国庫納付金という形で政府にもどってくるから心配はいらない。これが今採るべき政策、「国民のための金融緩和」だ。

 長期国債の金利はわが国史上初めてマイナスとなった。もし政府がマーケットのシグナルを重視するならば今、借金しなくていつするのか。市場は「どうか国債を発行してカネを借りてくれ」と切実なメッセージを発しているのだ。まさに国からすれば絶好の借りどきだ。そこでこの際、十数兆円の単位で超長期国債(仮称で教育・生活扶助国債とする)を発行して特に低所得者の子弟を意識した教育の基金としてはどうか。子どもの教育は社会的意義も大きく、また利回りが8〜15%とされる。このチャンスに格差是正の資金を調達するのだ。

長期金利の指標となる利付10年国債が、史上初めてマイナスになり、一時マイナス0.025パーセントに低下。日経平均株価も終値の下げ幅は今年最大となった=2月9日、東京都中央区
長期金利の指標となる利付10年国債が、史上初めてマイナスになり、一時マイナス0.025パーセントに低下。日経平均株価も終値の下げ幅は今年最大となった=2月9日、東京都中央区
 繰り返すがこれは国内でお金を借り入れて事業を拡大しようとする企業がないことから起きている異常な状態であることは確かだ。しかし、これは将来の展望が開けず景気が悪いことから起きている。この状況で財政危機への対応を優先する人は政策の順番がおかしい。

 今の日本に必要な経済対策はなにか。まずは日銀による追加緩和。次に、三党合意を無視して削除された景気条項を復活させ、それにもとづいて消費税再増税をとめること。さらには家庭の消費不況対策を最優先し、教育・子育てや給付金の形で低所得者層への所得再分配をめざす、10兆円以上の国債の新規発行を伴う経済対策だ。先に述べたように、国債の増発を伴わない形での経済対策は、今の状況ではナンセンスだ。

 今年1月の総額3.3兆円の補正予算は、2014年度から消費税の8%引き上げにあわせて支給されていた子育て世帯への給付金をスクラップ財源とすることによって編成された。なぜこんなことをするのだろうか。

 今、日本の子どもの6人に1人が相対的に貧困とされ、そのうちひとり親家庭の貧困率は50.8%と先進国で最も高い。日本の母子家庭の問題は特異だ。他の先進国の母子家庭は福祉の対象になっており無職というのが典型的だが、わが国ではほとんどのお母さんが働いている。それにもかかわらず貧困状態にあるのは彼女たちが非正規、低賃金で働かざるをえないからだ。わが国が先進国であるのならばこうした状態の解消にはぜひ力を入れなければならない。また、困窮家庭の学童に給食費や学用品費を補助する「就学援助」を利用した小中学生は約150万人で過去最高レベルだ。しかしその国の予算はわずかに年間8億円。こうした子どもの貧困対策にも更に予算を投入すべきではないか。

 その一方で、低所得年金受給者へ3万円を給付することを決めた政府与党。低所得年金受給者に対する給付を頭ごなしに否定するつもりはまったくない。が、なぜ子育て世帯はその犠牲にならなければならないのか。すべての政策の財源をスクラップアンドビルドで求めようとすることは「ペイアズユーゴー原則」といって霞が関の悪しき習慣だ。確かに投票率でいえば子育て世帯より高齢者の方が高い。が、政治家の決断がそんなことに左右されていいのか。新規国債を発行して両方とも給付するという選択肢を検討すべきではなかったか。

 国債発行をともなう補正予算を組んで、こういう人々のために使うことができる。発行した国債は、現在の「異次元の金融緩和」政策を日銀が続けている限り、市場から日銀が買い切りオペとして買い入れることになる。

 低所得層こそお金に欠乏しており、需要を作り出すという面での景気対策としての効き目も大きくなる。また、「企業が高い利益を上げているのに、なぜ国内で設備投資が出ないのか」とよく議論されているが、国内需要がこれだけ弱ければ国内で設備投資が行われる(=国内の工場のラインを増強する)わけがない。低所得者層への給付は、それ自体が社会的に善であると同時に、まわりまわって日本全体の景気をよくするための最初の手段であるべきだ。