大西宏(ビジネスラボ代表取締役)


 政権の安定性が唯一の取り得の安倍内閣ですが、経済が思わしくなく、いよいよ夕陽が沈む黄昏の様相となってきました。下り坂に向かうと、足元でいろいろ問題も起こってきます。成長戦略の旗振り役で安倍総理の盟友、甘利経済再生相の金銭授受疑惑の発覚が象徴しています。

 安倍内閣の功績としてはTPP妥結は評価したいところですが、アベノミクスが長い目でみれば駄目でした。異次元の金融緩和で円安誘導し、株価があがって、為替で大企業が未曾有の利益をあげた。それで宴となりました。

 そこまでは良かったのですが、その擬似好景気によって、ほんとうの課題であった産業構造の転換が遅れる結果になったように感じます。しかもお題目としては切れ味がよくない「一億総活躍」を唱えたのですが、でてきた政策はがっかりするものが多かったのではないでしょうか。

2月12日の日経平均株価は終値が1年4カ月ぶりに1万5000円を割り、円高も進んだ=東京都港区
2月12日の日経平均株価は終値が1年4カ月ぶりに1万5000円を割り、円高も進んだ=東京都港区
 アべノミクス第二弾も、総花で、これといった経済政策の目玉がないままに、中国経済の減速、原油安が引き金となり、株価の下落、さらに円安から円高へと流れが変わりました。アベノミクス効果は足元から揺らいできています。運もツキも尽きたの一言ではないでしょうか。

 つい最近、不要な書籍を処分しようとしていたら、高橋洋一氏の「アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる」がありました。今からすれば、まるでブラック・ジョークです。

 日本の経済停滞は「デフレが原因だ」とう風説がメディアを支配し、経済停滞という原因とデフレという結果を混同した話がまことしやかに広がっていた頃の一冊でしょうか。その頃は、異を唱えると「それはデフレ容認だ」とまるで魔女狩りのような状況になっていました。

 高橋氏にかぎらず、リフレ派の人たちは、日本経済大躍進とならかったのは、消費税をあげたからだということのようですが、本当にそうなんでしょうか。俄には信じられないことです。残念ながら、経済に関しては、昨年秋の予感どおり、いやそれよりも思わしくない展開になってきたようです。

 安保法制は数の論理で成立しても、経済はそうはいきません。ほんとうの力量が問われてきます。さて起死回生の手を打てるのか、なすすべもなく経済が減速し、内閣が失速するのか、安倍内閣に残されている時間の余裕は少ないのではないかと思います。


 いずれにしても、安定していることが最大の取り得だった安倍内閣ですが、足元の経済が思わしくなくなれば、自然、やがて支持率も下がってくるでしょう。自民党が掲げた「経済で、結果を出す」どころか安倍内閣の寿命は「経済が、結果をだす」ことになりそうです。

 ただ、自民党は小選挙区制で党内にリーダーが育ってくるメカニズムを失い、頼みの野党も、いつまでも過去の時代のパラダイムから抜け出せず、混迷したままで、安倍内閣に代わる政権リーダーが見当たらないために、安倍内閣の黄昏状態が長く続くのかもしれません。それはそれでも、次世代のリーダーなり、新しい改革の芽が生まれ、育ってくる状況ができればいいことです。

 ただ、実体経済を変えるのは政治ではなく、民間の知恵や努力です。政治ができるのは、そんな民間の知恵や努力を引き出すためのビジョンを示すことや、日本が世界経済のなかで勝ち残るための戦略を示すことではないでしょうか。

 もはや政治や官僚で経済が動く時代ではなく、ビジネスも、政治で左右されるというのはよほどの大企業か、利権ビジネスぐらいなものです。それぞれが、やるべきことをやる、チャレンジするものが報いられるという時代の空気が広がっていくのがいいと感じます。

(2016年01月22日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)