[WEDGE REPORT] 日本の経済政策にも転換点到来


倉都康行 (RPテック代表取締役、国際金融評論家)



 世界経済の失速感が強まる中で、先月OECD(経済協力開発機構)は各国に財政政策への検討を促す報告書を発表し、IMFも同様の要請を行った。その直後、G20財務相・中銀総裁会議では「政策総動員」といった勇ましい声明を通じて金融政策偏重の傾向を修正する方向性が打ち出されたが、具体的な中身は何もなかった。
日本にも求められる金融政策の進路変更(iStock)
日本にも求められる金融政策の進路変更(iStock)


変化する英米の金融政策の方向性


 だが確実に変化しているのは、英米の金融政策の方向性である。米国FRB(連邦準備制度理事会)は利上げ路線が修正を迫られ、追随すると見られていた英国中銀の利上げ傾斜姿勢も完全に崩れた格好になっている。特に興味深いのは、米国における主流派エコノミストの内部分裂である。

 具体的には、インフレ率はいずれ上昇に向かうとの期待を抱き続けるイエレン議長、フィッシャー副議長、ダドリーNY連銀総裁らと、長期停滞期におけるデフレを懸念すべきだというサマーズ前財務長官やクルーグマン教授らの、真っ向勝負の対立である。

 昨今では債券市場を味方に付けた後者の勢いが優勢であり、前者は追い詰められつつある。景気動向には不透明感もあり、その論戦は終わった訳ではないが、FOMC(連邦公開市場委員会)メンバーの中でもセントルイス連銀のブラード総裁のように、積極的な利上げ派から慎重派に転向宣言する向きが現れた。3月以降のFOMCは見ものである。

 日本でも、安倍晋三政権誕生以来リフレ派と反リフレ派が金融政策論戦を続けている。前者の代表として黒田東彦総裁は2%のインフレ目標を掲げ、物価が上昇すれば執拗なデフレマインドが払拭されて日本経済を成長軌道に乗せることができる、と主張してきた。それに対し、無理にインフレを起こしても成長につながる訳ではなく、デフレ・スパイラルになるような状況でなければ深刻な問題ではない、と見るのが旧来の日銀を代表する反リフレ派であった。

いつブレーキはかけられるのか?


 現状を見れば、リフレ派の劣勢は明らかだ。マネタリー・ベースを膨らませればインフレになる、といった議論は完全敗北を喫した。また日本経済にとっての恩恵である原油価格の下落を目標未達の主犯に挙げてあたかも災いのように語る姿は、一般国民には異様に映るだろう。

 だが、依然として日銀の緩和強行路線にブレーキはなかなか掛からない。その金融政策決定会合では、現行の政策方針への賛成・反対構造が5対4で事実上固定化されており、FRBのような柔軟性は乏しいからだ。

 黒田総裁の論調は明らかにダッチロールの様相を強めている。1月の国会で「マイナス金利は想定していない」と述べた1週間後にマイナス金利を導入し、2月には「マネタリー・ベースの拡大では期待インフレ率は上昇しない」と、就任時の主張をまるで180度転換させるような発言をしている。

 市場には「日銀の信用力に警戒信号が灯り始めた」との見方が出てきた。そして先般のG20の席上でも「日本の金融政策は通貨切り下げ競争を加速しかねない」と指摘されていたことも明らかになっている。

 筆者は黒田総裁が投入した派手な量的緩和には反対の立場だが、急激な円高圧力に対して非常手段としてのマイナス金利を導入することには賛成であり、2011年12月号の「ウェッジ」誌上でも、マイナス金利導入を提唱したことがある(『マイナス金利で円高阻止を』)。また、日本のリスク・テイク意識を覚醒させるためにも、一時的なマイナス金利は必要悪かもしれない、と思っている。

 ただし、その金融政策の単なる延長上に日本経済にとって最大の命題である「潜在成長力や一人当たりGDPを向上させる姿」を描くことはできないだろう。2%という全く理論的根拠のない物価上昇率目標と非現実的な目標時期を掲げる限り、財政ファイナンスに直結する量的緩和と市場機能を破壊するマイナス金利の二本立ての金融政策が、精査されることなく延々と継続される可能性は高い。