これまでいくら日韓の国民感情が悪化しても、自衛隊と韓国軍の関係は維持されてきた。ミリタリーの関係は、両国間の政治的な対立を軍事的な緊張にまで至らせない「安全装置」だったのだ。しかし今、仮想敵を日本に置いたとしか思えない韓国軍の行動が相次ぐ。米国を基軸とした同盟の原点を見失えば、地域の平和と安定は崩壊するだろう。

 シンガポールで開かれたアジア安全保障会議。日米韓の3カ国は6月1日、北朝鮮に核開発計画の放棄を強く求める共同声明を発表したものの、日本が求めていた韓国との防衛相会談は、韓国から拒否され開けなかった。日米韓が5月中旬に日本海で捜索救難訓練を実施したときも、韓国海軍は訓練の非公開を条件に参加していた。自衛隊幹部は「海上自衛隊との連携場面が報道されれば、韓国世論から反発を受けるという判断だろう」と説明する。だが、日韓の軍事面での関係悪化が表面化したのは氷山の一角にすぎない。

相次ぐ軍事交流の一方的なキャンセル

 5月の連休後半に韓国海軍の高官らとの会談を予定していた海上自衛隊トップの河野克俊海上幕僚長の訪韓が4月下旬、日程調整の最終段階になって突然取りやめとなった。靖国神社の春の例大祭に、多くの国会議員が参拝したため、韓国軍側から「不都合になった。訪問は受け入れられない」との連絡があったという。 実はその1カ月前にも、陸上幕僚監部の2人の部長(陸将補)が計画していた韓国陸軍との軍事対話が、相次いでキャンセルされていた。今年に入って、韓国陸軍は陸上自衛隊に対し、「陸将以上の訪問は遠慮願いたい」と、一方的に通告してきた。このため、陸幕では「陸将より下位の陸将補であれば、韓国側も受け入れるはず」(陸自幹部)と判断、装備部長と運用支援部長の2人を訪韓させ、北朝鮮の核やミサイル開発など朝鮮半島情勢について意見交換するつもりだった。

 The Blue House
竹島。韓国は、昨年末に公表した
『国防白書』で竹島の領有を強調した
 (提供:The Blue House/ロイター/アフロ)
 防衛省にすれば、自衛隊幹部が訪韓することによって、韓国の李明博大統領(当時)が竹島に強行上陸した昨年8月以降、北朝鮮のミサイル発射や核実験などの場面で連携が希薄となっていた韓国軍との関係を正常化させる狙いがあった。しかし、相次ぐ受け入れ拒否に、自衛隊幹部は「青瓦台(韓国政府)の指示で、軍のエリート将校養成課程が取りつぶされたように、ここ数年、軍のステータスは著しく低下している。軍も政府の了解がなければ自衛隊との関係を強化できない」と分析する。 これまで、日本海に浮かぶ竹島の領有権をめぐって日韓両政府が対立したときも、従軍慰安婦など歴史認識の問題で双方の国民感情が悪化したときも、自衛隊と韓国軍の関係が損なわれることはなかった。

 ミリタリー同士の良好な関係による「安全装置」が壊れ始めていることは、昨年12月に公表された韓国の『2012年版国防白書』が裏付けている。ある自衛隊幹部は「目を疑いたくなるような内容だった」と評している。 韓国が独島と呼ぶ竹島をめぐっては、日韓両国とも領有権を主張しているが、白書には、韓国海軍のイージス艦「世宗大王」を先頭に、艦隊による島の警備活動の模様が大きな写真で強調されていた。前回の『10年版国防白書』では、わずか1枚ずつだった竹島の写真と領有を示す地図が、今回は計4枚も掲載されている。 日本との防衛交流や防衛協力に関する記述では、「独島は疑いもなく、地理的にも歴史的にも、そして国際法的にも韓国の領土である」と明記した上で、「日韓の将来の防衛交流や協力を発展させるためには、独島に対する日本の誤った認識や不当な主張を打破しなければならない」とまで記述している。 腹立たしい限りだが、今必要なことは、居丈高な韓国の振る舞いに対し、感情的になって憤ることではなく、冷静な視点で、自衛隊と韓国軍との連携が、韓国の平和と安全にとって何よりも重要であるということを指摘し、韓国軍、そして青瓦台の目を覚まさせることだ。

韓国防衛支える自衛隊

 沖縄・尖閣諸島の領有権をめぐる日中対立が激化し、今でこそ、日米同盟や在日米軍が存在する意義は、中国に対する抑止力を維持することのように思われがちだが、戦後一貫して、その主目的は朝鮮半島有事への備えである。自衛隊や在日米軍の体制は、安保条約に基づく日米同盟という枠組みの中で、米国の同盟国である韓国を防衛するために、強力な半島有事シフトを維持している。

 具体的には、航空自衛隊は福岡県の築城と芦屋、山口県の防府北の3カ所に、1500~2000メートル級の滑走路を保有しており、海上自衛隊の大村(長崎)、陸上自衛隊の目達原(佐賀)、高遊原(熊本)、在日米空軍が使う板付基地(福岡空港)とあわせれば、北部九州という極めて限定されたエリアに7カ所もの航空基地が点在している。これは万一、第2次朝鮮戦争が発生すれば、米軍の戦闘機や輸送機が発進する拠点として活用されるのはもとより、日本人や米国人だけでなく、韓国から避難してくる多くの民間人の受け入れ基地としても活用されるはずだ。 さらに、北部九州地区には、福岡病院、大分・別府病院、長崎・佐世保病院、熊本病院という4つの自衛隊病院が集中している。これも韓国防衛のために傷ついた米軍や多国籍軍の兵士らの治療を前提に整備、維持されてきたのは紛れもない事実だ。このほか、朝鮮半島と向き合う長崎県の佐世保基地は、米海軍第7艦隊の戦略拠点であり、広大な佐世保湾の大半は、半島有事に緊急展開する米軍が占有したままだ。

 そもそも戦後、北朝鮮の侵攻で始まった朝鮮戦争を機に、自衛隊は警察予備隊として発足し、日本各地の空港や港湾は、韓国防衛のために出撃する米軍などの拠点となった。それだけではなく、開戦当初、北朝鮮の攻勢を食い止めるため、米軍などによる仁川・元山への上陸作戦を前に、連合国軍総司令部(GHQ)の命令によって、日本は特別掃海部隊を編成、朝鮮半島の周辺で北朝鮮が敷設した高性能ソ連製機雷の除去作業に従事した。不幸にも活動中、1隻が触雷して沈没、乗組員1人が死亡、18人が負傷している。朝鮮戦争では日本人も戦死しているのだ。 にもかかわらず、休戦後も、日米同盟に基づいて、自衛隊が韓国の平和と安全を支え続けてきたという認識が、韓国はあまりに希薄過ぎるのではないだろうか。それが証拠に、『12年版国防白書』の中で韓国は、「朝鮮戦争で韓国を支援した国々」を特集しているが、日本は5万ドル相当の資材を提供した国として、わずか1行だけ取り上げられているに過ぎない。 今年7月27日は、朝鮮戦争の休戦協定締結から60年という節目にあたる。もちろん、朝鮮半島の混乱は日本の平和と安全に直結する事態であり、自衛隊と在日米軍の半島有事シフトは日本のためでもある。しかし、韓国防衛に対する日本の献身的な貢献がきちんと伝わっていないのだとすれば、それをしっかりと認識させることは、日本政府にとって対韓外交の柱であっていい。

戦力増強する韓国軍と新たな基地建設

 自衛隊と韓国軍の間で狂い始めた歯車を、早急に元に戻さなければならない理由はほかにもある。それは近年の韓国軍の増強ぶりと新たな基地建設の動きに対し、自衛隊が不信感を募らせているからだ。

韓国の保有するイージス艦
「世宗大王(セジョンデワン)」
=写真先頭 (提供:ロイター/アフロ)
 かつて韓国は、『08年版国防白書』まで、外部の軍事的脅威である北朝鮮を「主敵」と位置づけていた。だが、10年版白書から主敵の表現が姿を消し、「北朝鮮政権と北朝鮮軍は韓国の敵」という表現に弱められている。呼応するように、100万を超す陸上兵力を持つ北朝鮮軍と、38度線を挟んで対峙しているにもかかわらず、韓国では現在、陸軍と海兵隊あわせて約55万人の陸上戦力を、22年には40万人程度にまで大幅削減する方向で検討しており、それに代わって増強しているのが海軍力だ。 08年以降、韓国海軍はイージス艦2隻を相次いで就役(現在、3隻目が試験運用中)させたほか、外洋航行に適した攻撃型潜水艦9隻を整備。駆逐艦6隻を含めた初の機動部隊を創設している。編成の目的は「国家の対外政策の支援、海上交通路の防衛、北朝鮮に対する抑止」を掲げているが、海上自衛隊幹部は「韓国は日本に負けたくないという思いが強い。あれだけの数のイージス艦と潜水艦をどこで使うのか。韓国がリムパック(環太平洋合同演習)以外で、太平洋で訓練したことなど見たこともない」といぶかる。対潜水艦作戦を念頭に置いたP3Cなどの哨戒機も16機保有しているが、搭載する対艦ミサイル「ハープーン」で攻撃するような水上艦は、北朝鮮軍には見当たらない。

 不可解なのはそれだけではない。1つは佐世保の西方約200キロに位置する済州島に大規模な海軍基地を建設していることだ。数年以内には、P3Cの航空基地も併設され、大型揚陸艦も含め、韓国海軍は機動部隊を配備する計画を打ち出す。防衛省幹部は「済州島は日本海と東シナ海をにらんだ前線拠点であり、将来、中国海軍が寄港するようになるとやっかいだ」と打ち明ける。

 また、これまで韓国は、米国との取り決めで弾道ミサイルの射程を300キロに制限してきたが、昨年10月、これを800キロに延長した。韓国南端から北朝鮮北端までの距離と説明するが、大阪など西日本は完全に射程圏内に入る。弾道ミサイルの射程延長に併せ、韓国は陸上発射型の巡航ミサイル(射程1500キロ)を配備し、駆逐艦や潜水艦には射程400キロの巡航ミサイルを搭載していることを公表した。北朝鮮を攻撃するためとしているが、「仮想敵は日本だ」とみる自衛官は少なくない。

 日米同盟と米韓同盟。日韓は互いに米国を介して朝鮮半島の安定に力を注いできた。在日米軍やその基地施設をめぐって国内が二分することがあっても、日本は戦後、多くの資材と資金を投入し、半島有事シフトを維持してきた。しかし、韓国には日本の努力への理解が乏しく、日本も自らが果たしてきた役割の重要性を認識していない。

 その間隙を突くように今、北朝鮮は核とミサイル開発を推し進め、中国は韓国を取り込みながら海洋進出を活発化させ、米国を基軸とする同盟に揺さぶりをかけている。何のために、日本と韓国は米国と同盟を組み、互いの同盟を基盤にしながら連携と信頼を築き上げてきたのか。その原点を見失ったとき、この地域の平和と安定は崩壊するだろう。