ブランド肉が近場のスーパーでも手頃に入手できる時代になった。ただそれが良いことばかり、とはいかないようで。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

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 国内における肉のブランドは牛肉だけで数百に渡る。正式に登録しているものから、自由に名乗ったものまでさまざまあれど、近年では豚や鶏など、新しいブランド肉も次々に登場する。TPPなど周囲の喧騒は止まらないが、今日も「肉」のまわりは総じて活気があると言っていい。

 食肉のブランド名の由来は、ざっくり4つのパターンに分類できる。1.地名、2.飼料など育て方、3.生産者の名前、4.その他、といったところだ。

 たとえば牛肉では、1.の地名は神戸ビーフ、松阪牛、宮崎牛などの黒毛和牛について、一定のルールに基づいてその名が冠される牛肉が多い。主に「雌牛のみか、去勢も含むか」「肉質等級(5~1)、歩留まり等級(A~C)」などが基準となっている。各地域でそれぞれ異なる基準を設け、複数の肥育農家の間で運用できるルールがある。2.は、北海道の鶴居村アップルビーフ、大阪ウメビーフ、小豆島オリーブ牛、宮崎のパイン牛など、飼料由来の名前がつけられたパターン。3.の個人名は神戸高見牛や宮崎の尾崎牛など生産者の名前が冠されたものだ。

 肉の味を「血統7割、飼料3割」と言う生産者もいる。試して舌に合うようであれば、2.の飼料や3.の牧場指定のほうが、より味の方向性が明確なので、指名買いをするのもいい。

 実は豚肉にも5段階で枝肉の格付けはあるが、消費者の判断材料として提供されることはまずない。その分、熱心な畜産農家は「血統」「飼料」「生育環境」を組み合わせて、独自のブランド豚を作り上げることに熱を入れている。鶏については、日本農林規格(JAS)で「地鶏」の定義が定められている。「在来種純系血統50%以上」「飼育期間80日以上」「28日齢以降は平飼いで1㎡当たり10羽以下」など一定の基準があるため、より厳格な飼育を行うなどして、強固なブランドを構築しようという養鶏家もいる。

 そして4パターン目の「その他」。実はここが悩ましい。ブランド名から「味」が見えてこなかったり、「?」とクビをかしげてしまうようなネーミングのものが多いのだ。たとえば牛肉のブランド名のリストを見ていると、「美味旨牛」「しあわせ絆牛」「しあわせ満天牛」「しあわせ牛」といった名前がそこかしこに……。

 気持ちはわからないでもないが、「うまい」「しあわせ」といった気分については、どうか食べ手のわれわれに預けていただきたいところ。豚肉でも「コレナイ豚」という銘柄を発見して、「?」マークが頭上を駆け巡ったが、どうやら「コレステロールが少ない」という意味のようだ。「少ない」を「ナイ」と表記してしまうと、最近の傾向としては炎上しかねないんじゃないかとか、余計なことが心配になる。

 もっとも先日、さらにすごいキャッチコピーのついた肉を発見してしまった。都内のとある飲食店の紹介文で、「黒毛和羊」「羊の中で唯一の肉専用種『サフォーク種』」という謎の表記を見つけてしまったのだ。
 何が謎かというと「黒毛和牛」をもじったのであろう「和羊」という表記だ。和牛には品種に明確な定義がある。サフォークはイギリス原産で「和羊」ではないし、黒いのは顔など体の一部だけだ。しかも肉用種の羊にはサフォークのほか、「肉めん羊の王」とされるサウスダウンなどもある。

 普段なら「信州サフォークは数十頭しか飼育されておらず、幻の羊とも呼ばれています」などの表記はスルーするが、あまりにツッコミどころ満載なので、信州サフォークのお膝元、信州新町支所の産業振興担当に問い合わせてみることに。

 まず飼育頭数は「出荷の前後で変わるが、多い時期で約500頭、少ないときには250頭くらい」だという。ケタがひとつ違う。さらに「黒毛和羊」について聞くと、担当者は苦笑いしながら「一時期、そう呼んでいたお店もありましたが、こちらでは、まずそういう呼び方はしません」とバッサリ。

 もったいない。あまりにもったいない。というのも、信州サフォークはとてもおいしい羊だ。出荷されるのは、ラムより味が乗り、マトンより香りがやさしいとされる12~24か月までの「ホゲット」。主にチルド・冷蔵で流通に乗せているので、肉の状態もいい。

 そこにどんな意図があるにせよ(もしくはないにせよ)、情報はものの価値を操作してしまう。お手軽に「盛った」ところですぐバレてしまう。いいものであれば、そのいいところに向けて、真摯に焦点を合わせ、光を当てたほうが生産者や食べ手にも喜ばれる。あふれかえる情報のなか、ブランディングにも当然のように誠実さが求められる時代なのだ。本来は、いつの時代でもそうあるべきではあるのだが。

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