仲村覚(ジャーナリスト、沖縄対策本部)


誰も予想しなかった政府の和解案受け入れ


 3月4日、誰も予想していなかった判断を安倍総理が下した。辺野古移設の代執行訴訟をめぐって福岡高裁那覇支部が提示した和解案を受け入れることを決めた。決して口にすることもネットで発信する事も無いが、この一報を聞いて最も驚いたのは沖縄の自民党議員、そしてその支持者ではないだろうか? 1月24日に投開票が行われた宜野湾市長選挙にて自民党推薦の現職の佐喜真市長が再選を果たした。この選挙の勝利は翁長知事の「オール沖縄陣営」に大きな打撃を与えたからだ。

 「オール沖縄」とは共産党、社民党などの革新政党と翁長知事を支持する一部の元自民党の統一勢力のことで、その実態は「反自民」である。「もし、自民党が負ければ、反自民である『オール沖縄』が本当のオール沖縄であるかのように報道され、沖縄の自民党の存在感が薄れてしまい、そのあとの選挙も全て負けてしまう」。だから自民党県連はこのような強い危機感をもって宜野湾市長選を戦ったのである。
沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場と住宅地=1月17日
沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場と住宅地=1月17日
 総力を上げた戦いは実を結び、相手候補に大差で勝利した。逆に「オール沖縄」が「オール沖縄」で無いことを実証したのだ。「オール沖縄」陣営にとっての宜野湾市長選敗北のダメージは大きかった。既に参院選候補として擁立が決まっていた元宜野湾市長の伊波洋一氏の出馬の見直しまで始めた。宜野湾市長選でそこまで沖縄の空気は大きく変わったのだ。自民党にとっては久しく経験したことの無い追い風ムードである。そのような中での移設工事を中断しての和解受け入れだったのである。

 では、このような時期に何故政府は和解案を受け入れたのだろうか? 安倍総理の答えは、「政府と沖縄県が訴え合う状況は良くない」という考えからである。また、多くの新聞や雑誌では、「6月の沖縄県議選や夏の参院選への悪影響を回避するため」という見方が多い。筆者は両方真実だと考える。宜野湾市長選の勝利で追い風が吹いているが、これまでの方針通り工事を断行して選挙を迎えると、政府との対立構図を利用した「オール沖縄」陣営に有利なように選挙を進められてしまうかもしれない。最悪の場合は万一の敗訴という可能性も残っている上、更にこの対立構図に終りが見えない。そうであるなら、工事を1年程度遅らせてでも、和解というプロセスを経て訴訟を完全に終わらせてしまうほうが懸命である。

 いわゆる「急がば回れ」作戦を選んだのだ。今回の合意で、安倍総理が最もこだわったのは、再び訴訟合戦にならないようにすることだ。国と県の和解で3つの訴訟は取り下げられ、沖縄県の翁長雄志知事による埋め立て承認取り消しの違法性を争う訴訟にいずれ一本化される。和解案は「新たな訴訟の結果が出たら双方が従う」というのが合意の前提である。