篠原章(評論家・批評.COM主宰)

 国が沖縄県を相手取って起こした、辺野古埋め立てをめぐる代執行訴訟で、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)の示した暫定和解案を安倍晋三首相が受け入れたことについて、沖縄のメディアは、「裁判によって辺野古移設の不当性がますますはっきりした」という論陣を張っている。「翁長雄志知事優勢」と伝えたいのだろうが、その論調に以前ほどの力はない。見出しは相変わらずスポーツ紙並みの沖縄タイムスも、記事の中身を精査するとプロパガンダ的な物言いは減って、「事態を静観したい」という思惑も読み取れる。他方、これまで翁長雄志知事の姿勢を非難し、国による代執行を歓迎していた県民のあいだにもある種の敗北感が漂っている。中には「国に裏切られた」という悔しさを露わにする人たちさえいるようだ。

 一部に誤解があるようだが、国と県による暫定和解案の受け入れが直ちに決着につながるわけではない。国と県は和解案に従って協議を行うことになっているが、協議の場で決着がつくことは事実上想定されていない。協議の決裂を前提に、両者はあらたに起こされた違法確認訴訟などで闘い、最終的にはその判決に従う、というのが、暫定和解案の内容である。

 裁判所による「和解案の提示」は誰もが予想しなかったが、そのショックで、親翁長派も反翁長派も最終的な判断に躊躇しているというのが事の真相だろう。「一体何が起こっているんだ?」という思いがあちこちで見え隠れしている。

辺野古沖で再開された海底ボーリング調査=2015年3月12日午前、沖縄県名護市
辺野古沖で再開された海底ボーリング調査
=2015年3月12日午前、沖縄県名護市
 が、筆者には両派の躊躇が理解できない。今回の和解案受け入れは「翁長知事の敗北」を前提とした和解案だと考えるからだ。知事による「辺野古移設黙認」はほぼ決定的になったと考えて差し支えない。和解案に伴う法的手続きの分だけ時間はかかるが、辺野古移設は今後も着実に進められることになる。

 翁長知事が昨年10月13日に、仲井眞弘多前知事による辺野古埋め立て承認を取り消して以来、国と県との係争が続いてきたが、今回の暫定和解案は、代執行を目指してきた国の対応を、高裁が「不十分」と評価したことが背景にある。国は、昨年11月に、地方自治法第245条の8に基づき、国による代執行を前提とした県に対する「是正指示」を行った。噛み砕いていえば、「県が埋め立て承認取り消しを撤回しないなら、国が県に代わって撤回することになる。そうならないよう、今のうちに撤回しなさい」というのが245条の8に基づく「是正指示」の意味だ。

 ところが、同法245条の7には、代執行を前提としない「是正指示」が定められている。245条の8で定められているのは、国による強権発動を県に対して予告する「是正指示」だが、245条の7は県の自主的是正に期待する「是正指示」だ。国は11月の段階で、245条の7ではなく245条の8を適用すると閣議決定し、県に対してより強権的な「是正指示」を通告したのである。なぜ国は245条の7を選ばなかったのだろうか。