仲新城誠(八重山日報編集長)



 安倍晋三首相は3月4日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐる代執行訴訟の和解を受け入れると表明した。国と県が争っていた3件の訴訟は取り下げられ、安倍首相は辺野古埋め立て工事を中止した。夏の参院選を見据え、一時的な政治休戦を選択した安倍首相の「奇策」である。しかし安倍首相、翁長雄志知事とも、辺野古移設の推進、反対姿勢を転換させる様子はなく、両者の対立構造は根本的には変わらない。

 しかし参院選こそ、辺野古移設の行方を左右する天下分け目の関ヶ原である。自民党からは現職の島尻安伊子沖縄担当相、移設に反対する「オール沖縄」勢力からは元宜野湾市長の伊波洋一氏が出馬する。

 島尻氏が勝利すれば、安倍政権は初めて「民意」を掲げて辺野古移設を着実に推進できるようになり、移設をめぐる環境は劇的に改善する。

 伊波氏の当選なら、反基地派のゲリラ的な妨害活動が勢いを増し、辺野古移設は、ベトナム戦争のように泥沼化するに違いない。

 では、島尻氏と伊波氏は単純にどちらが強いのか。前回の参院選沖縄選挙区では、革新系政党が分裂し、島尻氏が漁夫の利で辛うじて当選した。しかし今回は共産党が独自候補の擁立をやめ、伊波氏の支持に回っている。過去の得票データから推測する限り、伊波氏がやや優勢だ。

 そうした情勢で、辺野古移設の工事を続行したまま参院選に突入すれば、何が起こるだろうか。沖縄メディアは「民意を無視し、工事を強行する安倍政権」に対する批判報道を連日のように繰り広げ、島尻氏のイメージは悪化の一途をたどるはずだ。安倍政権としてはこうした事情を勘案し、和解を決断したのだろう。

 安倍政権が参院選沖縄選挙区の勝利にいかに執念を燃やしているか、沖縄からも、ひしひしと感じる。

真っ白なスーツで出馬会見に臨んだ今井絵理子
真っ白なスーツで出馬会見に
臨んだ今井絵理子
 「第一の矢」は、候補者である島尻氏自身の大臣登用だった。島尻氏は当選2回。過去に政務官を一度経験しただけで、沖縄には島尻氏より年長で当選回数も多い政治家がいる。二階級特進とも呼ぶべき大臣登用は、明らかに参院選対策の一環だった。

 「第二の矢」は沖縄出身のタレント、今井絵理子氏の参院選比例での擁立だ。同じ女性候補として、官邸が島尻氏とのタッグを期待しないわけがない。ただし、比例で共闘する公明党との関係で、吉と出るか凶と出るか未知数だ。

 そして和解が「第3の矢」である。県は工事の中止を勝ち取ることができるが、国は中止による移設の遅れというリスクを一方的に抱え込む。国の実質的な譲歩であることは間違いない。だから安倍首相は、2001年、当時の小泉純一郎首相がハンセン病訴訟の控訴断念で見せたような、一種のサプライズ効果を期待したはずだ。辺野古反対の世論を一挙に軟化させようと狙ったのかも知れない。