木下斉(まちビジネス事業家)
飯田泰之(エコノミスト、明治大学准教授)

司会:柳瀬徹(フリーランス編集者、ライター)

地方のリーダーシップは「絶滅の危機」にある


飯田:地方の問題だけでなく、国政レベルでもしきりに言われるのが「リーダーシップが求められる」という意見です。でも、民主的な状況でのリーダーシップ待望論は、根本的な矛盾を抱えています。

 もっと簡単な状況は、その地域に権力者がいて、その人さえ口説けばなんとかなるというものです。『農業で稼ぐ経済学』(浅川芳裕との共著、PHP研究所)でもお話ししたことですが、「豪農」が名家として残っている地域では、農業改革ができる。庄屋や名主の家が没落していなくて、かつ、地元で仕事をしているのであれば、何をやるにも話は早いということですね。

木下:たしかに温泉街でプロジェクトをやったときも、代々有力者の家系でなおかつ元町長という方が「やるぞ!」と声をかけてくださったら、あっという間に進んだことがありました。

飯田:リーダーシップという言葉だとふんわりとした、清廉潔白なニュアンスが強いんですけど、要するに「権力者が残っている方がまだ望みがある」という話なんですよね。

まちをひとつの「会社」に見立てて経営を立て直す事業に携わる木下斉さん
木下:誰が決めればいいのかがわかっている街は強い、それは明確にそうですね。意思決定をする段階でそれまで表に出てこなかった人たちが急に大挙してやってきてめちゃくちゃな意見を出してきてしまう場所だと、結局落とし所が見えない。やるのかやらないのかさえ意思決定出来なかったりします。僕らはそのような地域は諦めます。やることさえ決められないのであれば、前に進まないですから。

飯田:やはり交通網も発達しているから、事実上の責任者になってくれそうな地元財界人は、一定以上の成功を収めると地元からいなくなってしまいますしね。

木下:本当にそうなんですよ。僕の知っている地方のお金持ちは多くは、家は地元にある。でも東京にセカンドハウスも持っていて、週の半分かもしくはウイークデーは東京に来ている。週末だけ地元に戻るけど、友だちは東京のほうが多いという人も少なくありません。息子娘は高校の時から海外、という人もいますからね。

飯田:僕の友だちも山梨県で会社を経営しているけど、奥さんと娘さんは東京に住んでいます。本人も週の半分くらいは東京にいるようです。そもそも山梨なら通勤できる範囲でもありますしね。

木下:そういう行動形態が普通にある。時間とお金に余裕がある人ほど、そういったライフスタイルになりやすい。「二地域居住」などとしきりに言われていますが、昔からいくらでもあったし、すでにみんながやっていることなんです。地方の経営者層や資産家、いわゆる名士の人たちの往来は本当に活発です。

飯田:九州地域の活性化事業に携わっている人たちと打ち合わせをする機会があって、「小倉か博多あたりでやりますか?」と言ったら「いえ、みんなだいたい東京にいますから」という返事でした。誰も九州にいなかった(笑)。

木下:一番集まりやすいのが東京ということは多いです。

飯田:許認可関係も東京に来なければなりませんからね。

木下:東京集中はネガティブに語られやすいですけど、まず「仕事がしやすいから東京にいる」という現実を認めないといけない。

 東京で会う地方の名士の人たちの実家に行くと、古墳みたいなお墓があったりします。どの地域にも一人くらいはスケール感のまったく違う人がいますよね。明治維新で利権が四十七都道府県に分割されて、一県ずつにその利権を継承している人がいる、そんなふうにさえ思えます。そういう人たちは、ちょっと昔までは地元に利益を還元する役割を負っていたはずですが、今はそういう人ほど東京や海外に進出していかざるをえない。そうなると地元への影響力も低下していく。その人への関心もなくなっていくから、「あの人が首をタテに振ればなんとかなる」という存在はどんどん減ってきています。

飯田:「どんな人かは知らないけど、でかい屋敷に住んでいる」くらいの認識になってしまったら、もうダメですよね。

木下:ダメですね。「最後はあの人に」という認識が、地域内でなくなってしまう。企業で言えば、誰が社長なのか、決裁者なのか見えなくなってしまうのと同じです。

飯田:「気が向くと市長を電話で呼びつけて、一緒に昼飯を食べている」みたいなノリの人が残っていれば、いろいろと話は早いのですが、そういう人は少なくなっている。「子どもの頃は飛行機で東京の塾に通っていた」なんて人もいましたからね。

木下:マイルがすごい勢いで貯まりますね(笑)。