潮匡人(評論家、拓殖大学客員教授)


NHKニュースの印象操作は今も続く

 去る3月21日、防衛大学校(神奈川県横須賀市)の卒業式が実施された。幹部自衛官への任官を辞退する学生は今回47名となり、昨年と比べ倍増した。卒業生の1割を超えている。「この数は、防衛大学校の1期生が卒業した昭和32年からのおよそ60年で4番目に多く、辞退する学生が卒業生の10%を超えたのは、バブル経済の好景気のもと、民間企業に人気が集まり、初めての海外派遣として湾岸戦争後のペルシャ湾に掃海艇が派遣された年に当たる25年前の平成3年以来」となる(同日NHKニュース報道)。

 この日、NHKは続けて、こうも報じた。

防衛省内に展開するPAC3=3月28日、東京都新宿区の防衛省
防衛省内に展開するPAC3=3月28日、東京都新宿区の防衛省
 《卒業した学生は、東日本大震災の1年後の平成24年4月に入校した若者たちで、在校中の去年9月、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法が成立しました。ことしの任官辞退について防衛大学校は、「例年に比べ、民間企業への就職を希望する学生が多かった」としていて、安全保障関連法が理由だと話す学生は確認していないとしています。防衛大学校では、安全保障関連法が成立してから初めての卒業式となりました。法律が来週施行されるのを前に、卒業生の親からはさまざまな声が聞かれました》。
なんとも巧妙な報道ではないか。放送法違反との批判を浴びることのないよう防衛省が発表した数字や事実関係を伝えながら、同時に「安全保障関連法が成立」した経緯との関連性を強く匂わせている。上記のとおり「初めての海外派遣として湾岸戦争後のペルシャ湾に掃海艇が派遣された年」以来と報じ、ニュースの最後を「身の危険は親として心配です」「世の中がずっと平和であることを願っています」と語る卒業生の母親のコメントで締めた。

 これでは、あたかも「安全保障関連法が成立」し「法律が来週施行される」から、任官辞退者が倍増した、かのように見える。平和安全法制(いわゆる安保法制)による海外派遣などに伴うリスクを、学生が恐れて任官を辞退した。そうした印象を視聴者は抱く。

 果たして、それは真実(かつ公正な報道)なのだろうか。翌日の防衛大臣会見で以下の質疑応答が交わされた(防衛省公式サイト)

「Q:安保法施行が迫っていて、それとの関連性についてはどう思われますか。

 A:任官の辞退者から聞き取りを致しまして、その理由について全員から聴取をした結果、平和安全法制の成立に言及した者はいなかったと聞いております。また、平和安全法制の成立によりまして、任官辞退が増えたという御指摘は当たらないと考えております」

 私の知る限り、大臣の答弁にウソはない。ただし「それはタテマエに過ぎない。辞退者が公式な聴取に対してホンネを話したはずがない」との異論や疑問はあり得よう。

 ならば、実態はどうなのか。《「任官拒否」が倍増の47人 卒業生の1割》――卒業式翌朝付「毎日新聞」は社会面のトップ記事で、そう報じた。