中村幸嗣(元自衛隊医官)

 「WiLL」11月号の記事。都立広尾病院院長 佐々木勝氏の寄稿です。

いや読んでいて本当爽快でした。記事に対するブログも反響を呼び、また清谷さんもそのブログを引用しながらしっかり分析された記事を書かれています。(防衛省の検討会の座長も怒る、お粗末な自衛隊の医療体制

 私は「腰抜け」と記事内で表された元医官として記事を書いてみたいと思います。 

戦傷医療の発展


 記事にもあるように戦傷医療は戦後から70年日本では止まっています。それこそ救急の多発外傷部門がこの戦傷部門に一番近い現代日本医療でしょうか。この分野の最先端の国はイラク戦争を始めしっかりと実戦を繰り返し、研究、進化と言うフィードバックを繰り返している米国です。
 戦士の命を大事にする米国。それこそ海外の任地で負傷した場合、記事にも書かれているように、前線から応急処置後救護所後送、1時間以内に外科処置をおこない、考え得る最善の措置を施しつつ自国内の病院へ4日後以内に搬送可能となります。

 思い出してください。米国人がエボラ出血熱に感染した時のことを。彼の国は感染した自国民の命を守るために安全に自国に運び、治すためにありとあらゆる治療をおこないました。働いた国民の命に対しちゃんと責任を果たそうとする国です。

有事が想定できない


 日本は今まで「有事」を想定することはできてもオープンにすることはタブーとされていました。特に制服を着た自衛官が口に出すことは絶対のタブーでした。それは朝日新聞をはじめとしてすぐにその言質の一部をとりあげ、あることないことで批判されてきた歴史からです。田母神さんの論文なんて佐々木さんのこれと大差ないでしょうに。

 それこそイラク派遣の時も被害者がでた時の訓練などはあまりオープンにはできませんでした。非戦闘地域でなぜそんな訓練が必用なんだと難癖をつけられる恐れがあったからです。今回の安保法案国会審議思い出しましょう。あれだけ自衛隊が危険にさらされていたでしょうと志位さんに突っ込まれていましたよね。(イラク派遣自衛隊員の自殺 ストレスは当然ありますが、それを改善するための建設的議論を

 つまり、「文民統制」が厳しかった当時、想定はしても発することはできないように指導されていた残りが今も続いているのです。発言しなかった腰抜け「医官」はその命令をしっかり守っていただけです。

 とはいえ、最近テレビでも隊員が戦闘行為で生じた怪我に対する救急処置訓練が報道されていました。実際防衛省のHPには想定のPDFが出ています。(コンバットメディカルコントロール)つまり被害者が出るとやっとオープンに表明できるようになったのです。

 今回の過激な佐々木先生の座長なんかも、防衛省がやっと本気になった、つまり有事を想定するようになったということだと思っています。もしかすると自民党が呼んだ憲法学者と同じ状況かもしれませんが。

切迫感なき政府


>「確実に負傷者が出ると分っているのにその手当を十分にできない」ことを、知っていながら黙って見過ごすわけにはいきません。

 この感覚、医官は医師としてみんな持っています。ただ感覚が強すぎた人間はもうやめてしまっていることも事実ですがw

>「誰かが命を落とすまでは戦傷医療の対策は行なわれない」 という事態になりかねません。

 海外派遣を経験した医官達は実はみんなこのことを思っていました。衛生をいかに良くしようと発言しても、法的根拠がありませんと文民統制の官僚から取り上げてもらえませんでした。

 今回の法律ができるまで、周りが熟するまでじっと耐えていたというのが実状です。今回の会議に出ていた医官もいままで発することを許されなかった歴史がすこし続いているだけです。

最悪の事態を想定せよ


 以下の引用すばらしい!

(1)使用される兵器も含めた戦闘やテロにかかわる情報を、医学的な側面からアドバイスできるシンクタンクを創設
(2)戦闘やテロに特化した医療の体系を作り、安全・安心を提供
(3)日本版NSCに医療担当部署を設置
(4)救命だけではなく、可能な限り身体機能を温存するためのシステムを構築
(5)医師個人の力量ではなく、組織を整え、情報も国家安全保障にかかわるものとして管理
(6)米国や英国、イスラエルなど実戦経験のある軍と交流し、有事の際は医学的観点を政府要人にアドバイスできる組織を構築
(7)本来自衛隊の役割が大であるが、臨床経験が乏しいため、民間の経験者も活用

特に(7)! 他国は民間医を活用されています。でもね佐々木先生みたいな医師は少ないですよ。だから防衛医大ができたんですよ! 安い給料で来てくれないんですよ。まして救急医! 全国足りないでしょう。

>「法律だからできないと断って仲間を見殺しにするか、やって違法だと罰を受けるか」

 会議で医官が自分から発しなかったのは、何度も書きますが文民統制の残りです。戦争は自分達が仕掛けなくてもおきてしまうことはあります。まして災害派遣の時もそうですが、戦傷と似たような外傷、精神障害はおきてしまいます。ただ救急処置は以前書いたように兵士が平時におこなうことは法的に許されていませんでした。仲間を助けて罪が問われることは避けなければいけません。だから法律ができるのを待っていました。やっとです。(訓練は前からしていますが、救命行動は法律で許されていなかった)昔の清谷さんへの反論記事はこの法律制定の流れを止めたくなかったというのも実はありました。(自衛官「国内では銃創や火傷は負わない」との前提 清谷さんのいうことも極端

本来任務を忘れるな


 私を教えてくれた自衛隊の上司は、「災害派遣はLAST IN!FIRST OUT!災害派遣はあくまで添え物。我々は武装集団だ」と。ただし自衛隊医官の平時の生活において、本来任務であるはずのこのような戦傷医療の実戦はあまり現実味を帯びていませんでした。あのチュニジアの医官のように。 

>自衛隊は「反対派」を意識するあまり、常に過度なまでに受け身に徹している。

 はい。その通りです。そしてやっとそこから脱却できるチャンスです。佐々木先生の指摘する自衛隊病院や防衛医大も今変らなければ意味がありません。

流れた血を誰が拭くのか


>「人の命はきちんと面倒をみるべき」

 今回の佐々木先生の記事ありがとうございました。さあ防衛省、自衛隊、医官。民間がやっと変ってきました。法律もなんとかできました。これから本当に国民の命を守ると同時に、兵隊の命を守る真の衛生となりましょう!

 それでも佐々木先生みたいな国民ばかりではありません。しっかり説明しながら防衛衛生を構築していただけることを今残っている医官達に期待します。