香田洋二(元自衛艦隊司令官)

 平成28年3月29日、午前零時をもって平和安全法制が施行された。同法は、一昨年7月1日の法律作成に関する安倍内閣の意思表明となる閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」を受けた法律策定作業の後、昨年5月14日の「平和安全法」の閣議決定、国会提出そして一連の国会審議を経て昨年9月19日に成立、同30日に公布されたものである。

 法律の施行日は公布後6か月を超えない範囲で決められるが、関連政令やROE(交戦規定)等の部隊運用関連規則の策定、さらに現場部隊への周知徹底等の所要期間を考慮し、規定期間のほぼ全てこれに充て本日の施行となったものと考える。まず、不毛な論議、本質から離れた感情的反対を乗り越え今日に至った関係者の努力と苦労に敬意を払うものである。

不毛な論議の連続だった国会審議


 国会審議は冒頭から不毛な論議の連続であり、現下の厳しい国際安全保障情勢において我が国が採るべき方策を真摯に追求したものではなかった。国会審議・論議で真に必要であったことは、終戦そして現憲法制定後約70年の中で、中国の「法規を無視した行動、あるいは自己に都合の良い解釈のみを関係国に押し付けるとともに必要時には力を併用した国際社会秩序への挑戦」という、冷戦終結をはるかに超える厳しい安全保障環境の激変が我が国の近くで連続して起こっている現下の国際情勢・周辺の安全保障環境の中で、(1)国際社会の有力な構成国として、また(2)インド・アジア・太平洋圏における極めて安定した国家として、さらに(3)人民解放軍(中国軍)も『いったん事を構えれば「ただでは済まない」厳しい相手』と本音では認めざるを得ない自衛隊を保有する国として、そして(4)この地域の安全保障において唯一中国の力の挑戦を抑止できる実力を持つ米国の最有力同盟国としての、我が国の取り組みのあり方であったはずである。
米海軍の横須賀基地(手前)と、海上自衛隊自衛艦隊総司令部(奥)=2008年1月11日、神奈川県横須賀市(本社ヘリから、芹沢伸生撮影)
米海軍の横須賀基地(手前)と、海上自衛隊自衛艦隊総司令部(奥)=2008年1月11日、神奈川県横須賀市(本社ヘリから、芹沢伸生撮影)
 残念ながら国会における論議の大半、特に野党の質問の大半は現実離れしたうえに軍事的合理性の「欠片」もない事態を、まるで明日にでも起きるように持ち出して政府に畳み掛けるものが大半で、まさに反対のためには手段を選ばない戦術であり、論議のあるべき姿からは程遠かった。残念である。また、野党の戦術は上で述べた法案の本質論議を外した政府答弁の揚げ足取りであったと見受けられ、政府との論戦において、自らの主張の正当性を確立して自己の得点を重ねるという本道よりも、政府の失点のみを狙ったものだった。

 これでは、政府答弁が不十分な場合の地盤沈下は期待できるが、本件に関する野党の立場の浮揚・確立は、自らの政策を本質的に論議しない以上そのチャンスさえないことを意味し、先に述べた我が国が直面する大命題への取り組みを堂々と国民に示すものではなかった。野党は、一部対案らしきものは提出したが、それは反対の論陣を張る一部マスコミさえまともに取り合ったものではなかった。