杉山仁(JPリサーチ&コンサルティング顧問)

成功率はせいぜい30%程度


 この2、3年、円安傾向にもかかわらず、日本企業による大型海外M&A(合併と買収)が続いている。2015年通年の日本企業による海外M&A金額は11兆円を上回り、前年の9割超の増加ペースで急拡大している。日本企業が成長性の高いマーケットでのシェアを上げるとすれば、海外M&Aは手っ取り早い方法であろう。

 しかし、海外M&Aは買収合意を発表したときは大々的に報じられ、マスコミも囃し立てるが、買収を完了したあとで、当初の買収目的を実現できている案件はきわめて少ないのが実情である。

 筆者はメガバンク勤務時より転出後の現在に至るまで海外M&Aの仕事に携わっているが、筆者の見たところ、日本企業による海外M&Aで買収後ただちに買収目的を実現できているケースは件数にして全体の10%程度ではないだろうか。買収後数年の努力のあと、ようやく買収目的の実現に至るのが全体の20%程度であり、これらを含めても成功率はせいぜい30%程度と思われる。

 日本の大企業が、大型海外買収を誇らしげに発表したあと、ほんの2、3年で大失敗に終わり、巨額の損失を被っている例は枚挙に暇がない。またM&Aの失敗を隠し続け、減損損失を先送りしているケースも、東芝に限らないであろう。

 日本企業による海外M&A失敗の原因を考察するため、公表された失敗事例を見てみよう。

 第一三共によるインドの製薬会社ランバクシー・ラボラトリーズの買収では、デューディリジェンス(買収対象企業の実態を買収前に精査すること)で発見したリスクに対し適切な対応がなされなかった、と報じられている。買収完了前の段階でランバクシーの工場で生産した医薬品が、米国当局により米国への輸出を禁止されていたにもかかわらず、対応策が講じられず、かつ買収契約書に当該問題についての売り手責任が明記されていなかったという。

 この結果、第一三共は買収後6年間で買収金額約5000億円の大宗を占める4500億円の損失を被り、最終的には所有するランバクシー株の全株を売却し、撤退する事態を招いた。買収完了を急ぐあまりにデューディリジェンスによる発見事項に対し、買収契約書で補償義務を明確にしておく等の対応を取らなかったことが致命傷の1つになったと思われる。

 住設機器メーカーLIXILが2014年1月に買収したドイツ現地法人Joyou AGは中国で衛生陶器等の製造・販売を行なっていたが、買収後わずか1年5カ月で同社は破産手続を開始すると発表した。これに伴うLIXILの損失額は660億円と報じられている。Joyou AGは買収される前から周到な粉飾を行なっており、LIXILはデューディリジェンスで粉飾を発見できなかったとされる。

 2013年7月、総合商社の丸紅はアメリカ第3位の穀物商社、ガビロンを2700億円で買収、丸紅の穀物部門と統合し、アメリカにおける穀物ビジネスを急拡大させる計画であった。

 ところがガビロン買収による丸紅とのシナジーは計画どおり実現せず、買収後わずか1年8カ月後の2015年3月期決算において、ガビロン買収時の「のれん代(買収額と正味資産の差額)」1000億円のうち、500億円の減損計上を余儀なくされている。買収金額を大きくするため、買収後の利益見通しを楽観的に計上しすぎたためと推察される。
シャープ本社を訪れ、報道陣の取材に応じる鴻海精密工業の郭台銘会長=2月5日、大阪市阿倍野区のシャープ本社(彦野公太朗撮影)
シャープ本社を訪れ、報道陣の取材に応じる鴻海精密工業の郭台銘会長=2月5日、大阪市阿倍野区のシャープ本社(彦野公太朗撮影)
 2月25日、シャープは台湾のOEMメーカー、鴻海への売却を取締役会で決議した。

 鴻海は創業者1代で築き上げた世界最大のOEMメーカーではあるが、世界に通用する独自技術と自社ブランドはもっていない。