河合雅司・産経新聞論説委員

 世界同時不況、北朝鮮の核実験、地球温暖化、新型インフルエンザ…。現在の日本は心配しだしたらきりがないことばかりだが、中でも深刻に感じるのが少子化問題だ。人口は国家の基盤そのものだからだ。どんなに強い国家、豊かな社会を目指そうとも、国民がいなくなったのでは元も子もない。

 日本は世界で最も少子高齢化の進んだ国だ。政府の人口推計では、50年もしないうちに総人口は3割も減る。100年もすると4500万人を割り込む。毎年100万人もの日本人が消える時代が目前に迫っている。戦争でもこんな極端に人口が減ることはないだろう。

 急速な人口の変化は社会の混乱を招く。年金だけでなく、あらゆる社会システムに支障を来す。税収は落ち込み、公共料金も値上げせざるを得なくなるだろう。政府は社会保障の財源不足を消費税で賄う考えだが、財源が足りなくなるのは何も社会保障分野だけではないのだ。

 地域社会を維持できなくなれば伝統や文化の継承は難しくなる。成熟国家はこうやって滅びていくのかとすら感じる。われわれは、すでに国家存亡の危機の真っただ中に置かれていると認識すべきだ。少子化は「静かな有事」なのである。

 ミサイルが飛んでくるような見える危機でない分、たちが悪い。団塊の世代が本格的な高齢者となり、高齢者人口がピークを迎える2020年代が日本にとっての正念場だ。平成元年の出生率が「丙午(ひのえうま)」の年を割り少子化が社会問題化して以来、有効な手立てを打てないままで来た責任はあまりにも大きい。

 今すべきことは2つある。1つは人口減少時代にかなった社会構造への転換だ。少子化対策が成果を上げるには時間がかかる。いつまでもハコモノ建設の公共事業では通用しない。初めに建設ありきで、道路や地方空港の需要予測が甘くなっては困る。時代に合わなくなった事業は取りやめる勇気が必要だ。

 省庁縦割りの硬直化予算を改め、無駄を徹底排除することも大事だ。モノから人への投資へと転換する。行政サービスの効率化に向け人口の集約化を目指す必要も出てくるだろう。

 2つ目は、言うまでもなく少子化対策の強化だ。政府のこれまでの施策は、少子化の流れをどうやって緩やかにするかという発想の上に立っていた。だが、人口減少を食い止めない限り問題は根本解決しない。

 人口増を国家目標とする。少子化の危機を社会全体の課題としてとらえ、バラマキなどと批判せずに子育て世帯に思い切った経済援助を行う。休日だけ子供を預かるような「緩やかな里親制度」を普及させるのも一つの手段だろう。

 平成20年の合計特殊出生率は1・37で、過去最低だった17年の1・26から3年連続上昇した。母親となる女性数が年々減るなど素直に喜べない点も多いが、とりあえず数字が好転したのは歓迎すべきことだ。

 折しも「婚活」ブームだ。団塊ジュニア世代が出産期にあるいまが本当にラストチャンスなのだ。政府の「安心社会実現会議」も少子化克服を安心回復の大きな柱に据えた。高齢化のピークを乗り切り希望を見いだすためにも、安心して産み育てられる社会を是が非でも実現しなければならない。