河合雅司・産経新聞論説委員

 どうも、よく分からない-。後期高齢者医療制度の見直しをめぐる舛添要一厚生労働相の発言のことだ。

 後期高齢者医療制度は依然として批判が強い。むろん、制度をよりよくすることに全く異論はない。何が分からないかというと、どこまでが政治家個人の発言で、どこから厚労相として話しているのかの線引きだ。発言の唐突さもあり、意図や真意が読みづらい。

 舛添氏はテレビ番組で見直しを唐突に公言した。閣僚も政治家としての顔を持つ。個人の考えを示すことは問題ない。だが、舛添氏は厚労相として75歳以上の年齢で区分する必要性を説明してきた経緯がある。その同じ人物がそれまでの発言を翻したのだからややこしい。いくら個人的見解と断っても多くの人は厚労相の方針転換と受け止める。事実、厚労省には「政府方針が変わったのか」との問い合わせが相次いだ。

 高齢者医療制度の見直しは国民の関心が強い。厚労相の肩書を持った人物が大きな方針見直しを切り出せば、期待も膨らむ。ところが、頭越しにされた官僚は、発言の意図を把握し切れていない。厚労相は厚労省組織のトップだ。官僚は大臣発言を全く無視するわけにもいかず、戸惑いと疑心が広がった。これでは組織はうまく機能しない。厚労行政への信頼がさらに失われるだけだ。

 この時点で舛添氏は福田内閣の閣僚だった。舛添氏は「政権が変わるときに大きな政策変更をすべきだと思っている」とも語ったが、ならば新政権が打ち出せばよい話だ。前政権の厚労相は混乱回避のため口をつぐむのが配慮というものだろう。どうしても発言する必要があったのなら、閣僚を辞任するケジメがあってよかったはずだ。

 線引きがさらにあいまいなのが、舛添氏が突如発表した改革私案だ。国民健康保険と後期高齢者医療制度を一体化して都道府県が運営する「県民健康保険」に再編する構想だ。これも個人的な考えで、厚労省案ではないとの立場だ。

 だが、舛添氏は厚労省に私案の問題点整理を指示し、厚労省に設けた直属の検討会の議題とした。閣僚懇談会でも説明した。端からみれば私案は厚労省案になったような印象だ。どちらの立場かによって、重みは大きく違ってくる。

 舛添氏は公費負担の在り方にも言及した。もはや改善ではなく、10年におよぶ医療制度の議論を根本から見直すことにつながる。ところが厚労省の審議会での議論や与党内調整は進んでいない。どこまで政府方針となるのか見当がつかない。

 議員個人と厚労相の立場を巧みに使い分け、独断専行で発言を続ける姿勢には、与党からも懸念が出ている。一方、メディアは舛添私案に冷ややかだ。厚労相が制度を抜本的に変える構想を打ち出したのである。新聞一面で大々的に報じられるビッグニュースのはずだが、大半は大きな記事とならなかった。

 立場のあいまいさが、結果的に「選挙の争点隠し」との批判を招き、麻生政権の本気度を疑う声にまでなったのは残念だ。せっかくの見直し機運までしぼんだのではもったいない。

 医療制度改革は簡単に結論は出せない。高齢者だけでなく若者の意見も聞き、国民が納得する制度にしていかねばならない。いまこそ腰を据えた議論が期待される。