古谷経衡(著述家)




坪単価235万円



 東京都の舛添知事が旧都立市ケ谷商業高校跡地を韓国政府に有償貸与する方針を固めたことが大きな波紋になっている。同校跡地は、新宿区矢来町6。付近には新潮社や秋葉神社がある。主要道路からやや奥まった場所にあるものの、閑静な住宅地のただ中にある一等地(約6,000平方メートル)と呼ぶに相応しい。

 都の方針を受けて、多方面から抗議が殺到した。曰く、「都有地を都民のためではなく、外国のために使うとは何事か」というものである。つまり「外国に貸し出すぐらいなら、都民のために使え」という声だ。


旧都立市ケ谷商業高校の跡地。現在は改築中の区立小学校の仮校舎として利用されている=東京都新宿区矢来町(稲場咲姫撮影)
都が貸し出す予定の都立市ケ谷商業高校の跡地。現在は改築中の区立小学校の仮校舎として利用されている=東京都新宿区矢来町(稲場咲姫撮影)
 2016年3月20日の産経新聞によると、都に対し「1日で300件の抗議」が来たと言い、ある自民党都議のコメントとして「(舛添)知事の暴走だ。竹島の問題もあり、とても容認できない」の声を紹介している。貸出先が領有権問題や歴史認識で火種となっている韓国であることが、この問題の批判調子の増勢として、火に油を注いでいる格好だ。

 私の結論から述べると、例えば貸出先が韓国ではなく、アメリカやドイツ、イギリスやブラジルであったとしても、この方針は論外だと思う。同校跡地は既に述べたように、新宿区矢来町という都下一等地にある。

 この付近では、最寄り駅が東京メトロ神楽坂などという好立地のため、都民垂涎の人気のエリアでありほとんど新築住宅の売り物が出ないし、中古物件もほとんど希少な区域である。仮に出たとしても、坪単価はゆうに200万円を超えている。参考までに平成28年の「新宿区矢来町35」の公示地価は、一坪「235万7,000円」(宅地)である。矢来町で「まとも」な家を買おうと思えば、「億」を覚悟しなければならない。そういう場所だ。

 公示地価は実勢価格(実際の不動産取引における価格)とは若干異なるが、ともあれ、これにならって単純計算すれば、約1,800坪の旧都立市ケ谷商業高校跡地には、40億円以上の価値があることになる。このような一等地を、いかなる関係の外国であれ、有償とはいえ貸し出すことの合理的な理由は伺えないだろう。

 八王子や奥多摩など、都心郊外にある坪単価数十万円の遊休地なら百歩譲ってともかくとして、充分な資産価値のあるこのような都有地をむざむざと外国の為に貸し出すという世界観は理解に苦しむ。もっと別の、都民の益に直結する利用方法があって然るべきだろう。