飯田泰之(明治大学政治経済学部准教授)

聞き手・構成 Wedge編集部

 今国会では低年金受給者の消費を下支えするために、3万円を臨時支給する補正予算案が審議される。一時的な現金の支給は貯蓄に回り、消費への影響は小さいだろう。使用期限や用途が決まったクーポンなどの方が、まだ効果的かもしれない。恒常的に高齢者の消費を下支えするには、社会保障制度と税制の抜本的な改革が必要である。
 高齢者の消費を抑制する要因は「想定よりも長生きした場合の将来不安」と「子孫に財産を残そうという動機」というある意味正反対の2つの理由に拠ると考えられる。経済理論では前者をライフサイクル仮説、後者をダイナスティ(王朝)仮説と呼ぶ。

 ライフサイクル仮説では、若い頃に働いて貯めた貯蓄を、生涯をかけて取り崩していくという消費行動を想定している。このとき、遺産は想定よりも短命に終わったために使い残してしまった額ということになるわけだ。

 一方、ダイナスティ仮説では自己だけでなく子孫の繁栄まで考慮した消費・貯蓄を行う。なお、両者のある意味中間とも言える考え方に、財産を見せ金にして子孫から介護サービスを引き出そうとする「戦略的遺産動機」というものもある。

 どちらの仮説が正しいかについては判断の分かれるところだが、いずれにせよ、高齢者の消費を喚起するには、将来不安を和らげるセーフティネットの整備と遺産動機の低減策とがセットで必要になる。

 将来不安の緩和には、例えば高齢者に毎月6万円を一律支給する最低保障年金や高齢者給付金制度への移行などが考えられる。このような一律の制度に移行すると無年金・低年金の高齢者はいなくなる。

 この財源は相続税の引き上げにより確保することが望ましい。相続税を引き上げると遺産動機も弱まり、貯蓄が消費に回るからだ。

 日本の相続税は、相続対象の相続資産額は年間で約80兆円にも上るが、控除額が大きく約1.5兆円しか納税されていない。そこで控除額を配偶者は2000万円に、子は1人当たり100万円に引き下げ、課税額を一律20%に引き上げると、相続財産額が大きくなる将来的には毎年10兆円は捻出できる。これを原資にして社会保障を拡充すれば良いのだ。ちなみに、相続税を増税できれば、現役世代の階層の固定化を避けられ、格差社会も是正される。

 このような最低保障年金や高齢者給付金での生活を維持するためには、高齢者が部分的に働き続けられる労働環境を作らなければならない。現在も高齢者向けの求人は少なくない。技能労働者や専門性の高い職種では高齢者の雇用は拡大している。一方、健康で身体は動くが、専門的な知識や技能を持たない高齢者がいかに稼げるかが、今後の大きな課題である。

 老齢年金は72歳で「元が取れる」ようになっており、平均寿命が80歳を超える高齢社会では現行のまま持つはずがない。支給開始年齢は引き上げざるを得ない状況にあることから、企業も高齢社員を70歳まで適度な給与水準で継続雇用する方法を模索していくことになろう。

いいだ やすゆき 1975年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。駒澤大学准教授を経て、2013年より現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。専門は日本経済・ビジネスエコノミクス・経済政策・マクロ経済学。