河合雅司・産経新聞論説委員

 20~30代の若者を取り巻く住宅事情が、大きく変わってきたようだ。 先日公表された2012年度版「国土交通白書」によると、30代の持ち家率は1983年の53.3%から2008年には39.0%へと、この25年間で14ポイントも下落した。30歳未満も17.9%から7.5%へと激減した。「クルマ離れ」に続き、若者の「マイホーム離れ」が起きているのかといえば、そうでもない。
 もちろん、空き家の激増時代を迎えて住宅に資産価値を見いださず、あえて家を買わない人もいるが、多くは買いたくても買えないのである。75.5%もの若者は「土地・建物の両方を所有したい」と考えているのだ。

背景に不安定な雇用

 背景には、非正規労働者の増加や賃金の伸び悩みがある。総務省の就業構造基本調査(2012年)によると、非正規労働者は5年前の前回調査に比べ153万人増の2043万人で、初めて2000万人を突破した。雇用者全体に占める割合も38.2%と過去最高を更新した。

 若者の懐具合の厳しさを、可処分所得に占める住宅ローン返済額の割合で見よう。30代は1989年の13.2%から2009年は19.8%に上昇した。全世代とも増加傾向にはあるが、30代がより高い水準で推移しているのだ。

 一方、賃貸暮らしも決して楽でない。若者の2人以上世帯の約4割が住む民間賃貸の居住面積は55.4平方㍍で戸建てのほぼ半分だ。家賃負担が重く、狭い物件で我慢している人も少なくない。

 住環境が貧しくては結婚や子供を持とうとはならないだろう。不安定な雇用は、人生プランを狂わせていく。

 まず政府がすべきは若者の雇用安定であることは言うまでもない。だが、一朝一夕とも行かない。ならば、若い世代向けの良質な賃貸住宅の供給支援を進めるべきだ。

 この問題が深刻なのは、むしろ彼らがこのまま年齢を重ねたときだ。8割が持ち家に住む現在の60歳以上の世代とは異なり、持ち家率が低い世代の老後は、“高齢者の住宅難”が社会問題となりかねないからである。

 老後の居住費負担が重くなれば「年金だけでは暮らせない」という層が拡大する。高齢者向けの安価な賃貸住宅も、いまから整備計画を進めなければ間に合わない。

「東京回帰」が鮮明に

 一方、白書は持ち家率の低下が若者の新たな居住スタイルの模索につながっていることも明らかにした。その一つが「東京回帰」だ。

 「近い将来住みたい街」や「老後に住みたい場所」の意識調査で、東京圏1都3県を挙げた若者が、中高年世代より高い割合を示したのだ。

 若者の実際の居住地が、こうした志向を裏付ける。2000年以降の若者は、“過去の若者たち”のように郊外や近隣県に広い間取りを求めて引っ越すのではなく、都心を含めた23区にとどまり続けているのだ。むしろ、東京に流入する傾向も見られる。

 とりわけ中心市街地の「駅から歩ける場所」の人気が高い。こうした傾向は大阪や名古屋、札幌、福岡といった政令指定都市でも見られる。

 未婚・晩婚が進んで、1人暮らしや夫婦のみの世帯が多くなった結果、広い居住スペースを必要としない人たちが増えた。地価の高い中心市街地でも、狭い物件ならば手が届くということだろう。こうした需要に応える物件が増えてきたこともある。

移動は公共交通機関

 さらに興味深いのが、若者たちの暮らしぶりの変化だ。白書は三大都市圏(東京、大阪、名古屋)に住む若者の通勤・通学手段を調べているが、これまでの自動車中心から、鉄道やバスへのシフトが進みつつある。若者には自転車利用も進んでいる。

 休日の外出先についてみると、居住地における中心商店街や片道1時間未満のいわゆる「近場」で用事を済ませている人の割合が高い。極めて都市型で、コンパクトな生活志向が広がっているのだ。

 いつの時代も若者が社会を変えていく。つまり、こうした若者の生活志向に今後の社会へのヒントがあるということだ。無計画な拡大開発路線との決別である。

 これからは、行政機能の集約や効率的街づくりは避けられない。白書は、医療・福祉や商業施設に公共交通機関で簡単にいける「コンパクトシティ」構想を掲げているが、若者たちの機運の盛り上がりを逃してはならない。