酒井圓弘(妙乗院住職)


THE PAGEより転載)
 釈迦如来を本尊とする寺で、滝行ができる滝場や心を癒やす水琴窟、鮮やかなステンドガラスの奥にはやさしくほほえむマリア像―。このような一風変わった寺が、愛知県東海市にある。平安中期に創建された天台宗妙乗院で、ここ10年間で檀家(だんか)が3倍に増えるなど、檀家だけでなく、一般の人たちに対しても開かれた寺として、注目を集める。住職の酒井圓弘さん(52)は「住職は僧侶と経営者の2面を持つ必要があり、良いバランスを保つ必要がある」と話し、寺の今後を見据える。

「寺の個性を出す時代」と改革に取り組む


 
 同院は968年頃に創建された歴史ある寺。これまで、葬祭や供養などを専属で営み、お布施や寄付で経済的支援をしてもらう檀家によって、寺を運営してきた。

 しかし近年は、寄付額が減るなどして、従来の運営方法では厳しい状況になってきた。僧侶だった母方の祖父の影響で脱サラして出家し、2004年に同院住職に就任した酒井さんは、さまざまな視点で現状把握し「寺の個性を出す時代だ」と、改革に乗り出す。
寺改革について考えを述べる酒井圓弘住職(愛知県東海市の妙乗院で)
寺改革について考えを述べる酒井圓弘住職(愛知県東海市の妙乗院で)
 まず着手したのは「寺に人を呼び込もう」という考えで始めた縁日イベント。人が集まるなど一定の効果はあったが、人件費がかかったり、訪れた人が見て楽しむような文化財がなかったりするなど、欠点が目立った。次第に「何のためにやっているかという疑問」がわいて、軌道修正。敷地内にある1年中咲く桜、四季桜の存在をアピールすることにした。

象徴的なものは滝行ができる滝場


 同所の四季桜は毎年1~2月に満開を迎える。その時期に新聞社やテレビ局に情報提供すると、取材されるようになり、記事やニュースで広まり、「四季桜の寺」として見物客が増えた。ここから一般の人への寺公開を加速させる。

 仏教を日常にいかすという考えのもと、心理学やヨガなど専門的知識も習得し、人生相談や仏教講座を展開。本堂には寝て見る涅槃(ねはん)図や、水滴の反響音を楽しむ水琴窟を置いた。マリア様は“マリア観音”として「祈る心はみんな一緒。宗教に隔たりはない」と、ストレス社会に生きる人たちを、広くサポートする。
滝行に臨む参加者ら(妙乗院提供)
滝行に臨む参加者ら(妙乗院提供)
 改革の象徴的なものは、滝行ができる滝場。6年前、同所の庭に整備するとマスコミからの注目を集め、今では月に80人ほどが利用するようになった。

 「改革に取り組み始めたころは、檀家さんから『変なことをしない方がいい』と言われた」そうだが、寺のファンを増やすなど成果が現れるにつれて「認めてくれた」という。それを裏付けるのが、現在の檀家数。改革を始める10年前に比べて3倍の600に増えた。

 これらの取り組みなどが評価され、英字新聞「The Japan Times」が、「2015―2016 アジアにおける100人の次世代リーダーたち」の1人に酒井さんを選んだ。

 そのインタビューで語った夢は東南アジアの発展途上国に児童養護施設を作ること。その夢の実現のため、現在の住職という地位を捨てる意向を表明し、従来の寺運営に悩む住職には、これまでの改革のノウハウを踏まえた助言をする考えも示した。

 「私は多くの人が将来への希望が持てるようにお手伝いしたい。子どもたちの笑い声は大人に希望を与える。その子どもにチャンスを与えたい」と、未来を描く。
(斉藤理/MOTIVA)