MY時刻表で仮想旅行


 繊細で、気持ちの切り替えが苦手な結城。迷いだすと止まらなくなる自分も知っている。対局の振り返りをする“検討”も苦手で、負けた碁は一刻も早く忘れたい、頭の中から消し去りたい。だが時間があればつい囲碁のことを考えてしまう。そんな結城が気分転換に楽しむのが“電車”なのである。

「電車は、乗るのも見るのも好きですが、特に時刻表を読み解くのが好きです。頭の中で仮想旅行をしたり、自分でダイヤを作って、『この駅に急行を止めよう』などと考えながらオリジナルのダイヤを作成したりします。やり始めると止まらなくなってしまうので、最近は少し制限していますが(笑)」

 子どもの頃は、囲碁棋士にならなかったら、電車の運転士か野球選手になりたかったという結城。野球の方では関西棋院の野球部に所属し、2014年には、大ファンのオリックスの試合で始球式も務めた。

 一方の電車は、ローカル線好き。若い頃は青春18きっぷで大阪から広島、山陰まで旅をしたり、当時大好きだった、WINKのコンサートツアーを追いかけながら四国まで旅をしたこともある。

 現在は4人の子どもの父親である結城。最近では、長男・次男を連れて電車の趣味を楽しんでいる。

「関西の電車は、子供たちとほとんど乗りました。残念ながら長女はあまり相手にしてくれませんが(笑)、男の子たちとは電車という趣味を一緒に楽しんでいます」

最近見つけた弱点「高所恐怖症」


 最近、子供たちと電車を楽しんでいるうちに、結城は自分のある弱点を見つけた。

「廃線になる予定の鉄橋を歩いて渡ろうという企画があって、子供たちと参加しました。貨物列車を見て楽しむところまでは良かったのですが、鉄橋を歩きだしたら、怖くて足が踏み出せなくなって。昔は平気だったのに、いつの間にか高所恐怖症になっていたんです」

 その後、自分が高所恐怖症になったことを忘れて子どもと遊園地に行き、観覧車に乗ったとたんに、高所恐怖症を思い出したという結城。観覧車の中で眼を瞑りながらやりすごしたのは言うまでもない。

 結城聡は今年で44歳になった。若い頃は戦い一辺倒の打ち方で勝利を手にしてきたが、年を重ねるにつれ、打ち方もだんだん変化してきたという。
「年齢を重ねると読みの力が落ちてしまうので、経験を生かした、大きな視点で戦うことを心がけています。ただ頑張りすぎてバランスが悪くなってしまったり、今でも試行錯誤していますね」
 
 結城の頭の中は、「囲碁」「野球」「電車」の3つで9割を占められているという。それは小学生の頃からずっと変わらないらしい。30年変わらない髪型も、頭の中を占める3つの要素も、ちょっと不器用なのにものすごく決断力が早いそのギャップも、カラオケで淡々と工藤静香を歌うことも、その全てが、棋士・結城聡が愛される理由なのだろう。