八幡和郎(徳島文理大教授、評論家)

 「平成28年熊本地震」の際に、「ライオンが逃亡した」「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」などの悪質なデマが「ツイッター」に投稿され拡散されたというのが真実なら残念なことだ。その一方で、流布されたと嬉々として誇張し糾弾する人たちも胡散臭い。

 ライオンについては「おいふざけんな、地震のせいでうちの近くの動物園からライオン放たれたんだが 熊本」と書き込みがあり、ライオンが街を徘徊する写真も貼られたが一目で外国の写真とわかるお粗末なものだった。

 「熊本の朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」「熊本では朝鮮人の暴動に気をつけろ」「火事場泥棒を狙ってくる不届な国がすぐ近くにある」といった類いのものもあったが、これもあまり具体性が無く、関東大震災のときの騒動を知っている不届き者の愉快犯的仕業であると普通の人は分かるレベルの低いものだ。

 今回の対応で私が思ったのは、大災害が起きればSNSなどを通じてネットで有用な情報が飛び交うことを活用するという意味でも、デマに惑わされないという意味でも対策が十分でないということだ。

 政府や地方自治体もマスコミも一般国民も対応が余りにも遅れているように思え、首都直下地震のような巨大災害の時が心配だ。

 パリでのシャルリー・エブド事件や同時テロの際には、夥しい、かつ、深刻なデマが流れ、一方、有益な情報の拡散ということも熊本地震とは比べようがない規模で行われたのである。

 しかも、シャルリー・エブド事件のときに、酷い噂話が流され続けたのに対して、同時テロのときには、その反省から、さまざまな形で真実を拾い出し、デマを排除する工夫もされ、それなりに教訓が活きていたと言われる。

 最初に郊外のサン・ドニのサッカー場で爆発が起きたのが午後9時で、その半時間後には中心部のバタクラン劇場やレストランで連続テロが起きた。

 この時間帯はSNSの世界において、ゴールデンタイムであるので、夥しい情報が飛び交った。しかし、人々、とくにジャーナリストたちは、そのなかで信頼できる情報は拡散し、信頼できないとか嘘の情報は排除しながら、SNSとメディアと両方を使いながら正しい状況への理解へ収斂させていった。

 重要なのは、情報の信頼性を判断する力の陶冶(とうや)とシステムの構築なのだ。爆発があったという画像が流れたとしても、見るべき人が見ればかなりの程度は嘘を見分けられる。今回のライオン脱走騒動で言えば、外国でのものと分かるのは素人では難しくても海外の風景に慣れた人なら日本でのものでないと分かったはずだ。