赤木智弘(フリーライター)



 2016年4月14日、21時26分頃、熊本県で最大震度7を記録する大地震が発生した。

 それに引き続き、震度6強や6弱を記録する余震というには、それ単独でも大地震と言える地震が立て続けに発生し、各地に膨大な被害を引き起こしている。

 今なお、被害の全貌は明確ではないし、まだ大きな余震が発生する可能性もあり、予断を許さない状況にある。

強い地震で倒壊した住宅と倒れたカーブミラー=3月15日午前9時24分、熊本県益城町
強い地震で倒壊した住宅と倒れたカーブミラー=3月15日午前9時24分、熊本県益城町
 大地震の発生は当然、TwitterなどのSNSでも話題の中心になっていた。その大半は被災地の心配や、被災地に暮らす人々の無事を祈る声だった。なかには電気のブレーカーやガスの元栓を閉めるように呼びかけるものや、電話回線を混雑させないために、災害伝言ダイヤル171の利用などを呼びかけるものもあった。

 しかし、そうしたごく一部に残念な声があったのも事実だ。一部のユーザーが「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」などと書き込んでいたのである。

 「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」というのは、パッと見れば分かるように、1923年に関東地方で発生した流言である。地震の混乱に乗じた朝鮮人が、凶悪犯罪を起こしているという流言が、警察や新聞、そして人々の口づてによって伝わり、自警団による朝鮮人と思わしき人達に対する暴行や殺害などが行われた。

 このような恥ずべき歴史を僕たちは小中学校で習っており、それがどれだけ酷いことであったかを認識しているはずである。にもかかわらず、この2016年になって、同じような流言を口にする人がいるというのは、一体どういうことなのだろうか?

 今回、こうした風評を流したのは、決して警察や行政、そしてマスコミではない。風評を流しているのは、ごく一握りのネット利用者だ。そうした意味で、関東大震災の時のような話にはならないし、それが引き金となって暴行などが行われることもないだろう。

 そしてなにより、Twitterなどで「朝鮮人が毒を井戸に投げ込んだ」という風評を流している人たちもまた、悪気があって行っているわけではない。彼らは決してそれを事実として伝達しているわけではない。少なくとも彼らは「これはあくまでもネタである」と思っている。

 なぜなら「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだという風評は、教科書にも載っていて、みんな知っている話である。だから、大地震が起きた時にそう口にしても、それは冗談であると分かるはずだ」かれらはそう考えているのである。実際、彼らは「そうしたことを書くべきではない」と注意してきた人たちを「ネタだとわからずに本気にしているマヌケ」であると蔑んでいるのだ。

 イジメで被害者を死に至らしめた加害者たちの言い訳に「そんなつもりじゃなかった」「一緒に遊んでいただけ」「彼のためを思って指導した」といった言葉がある。イジメ加害者たちは自分がやっていたことがイジメだなどとは、つゆほども思っていないことが多い。