早川由紀夫(群馬大教授)

 4月14日21時26分に熊本県益城町で震度7の揺れを観測した。マグニチュードはM6.5でさほど大きな地震ではなかったが、震源が浅かったために直上の狭い範囲が強く揺れた。しかし、大きな地震ではなかったのに、余震がいつまでも続くので奇妙だといぶかしく思っていたところ、28時間後の16日1時25分にM7.3の地震が発生した。益城町と西原村で震度7を観測し、宇城市から南阿蘇村までの広い範囲が震度6強で揺れた。地震はそのあとも続いて震源域を北東に拡大させ、阿蘇地方や大分県内でもM5.0を超える地震が起きて現在も進行中である。

噴煙を上げる熊本県・阿蘇山の火口=16日午前8時41分
噴煙を上げる熊本県・阿蘇山の火口=16日午前8時41分
 地震帯が阿蘇カルデラを南西から北東に横切っているため、阿蘇が噴火するのではないかと心配する人もいるようだ。じっさい、この原稿を執筆中の16日9時に阿蘇が噴火したと気象庁が発表した。ただし、中岳中央火口からいつも出ている白煙に火山灰が少し混じって灰色になった程度で、めざましいことが起こったわけでは、まだない。地震が頻発して人々が阿蘇に注目したからこそ、気象庁が噴火を認定した気配が濃厚だ。多分にバイアスがかかっている。

 この頻発地震が大きな噴火を誘発するかどうかが気がかりだが、現代火山学でそれはわからない。誘発するとも誘発しないとも言えない。火山学が未発達だから言えないのか、それとも原理的に言えないのかの見極めは学術的にたいへん重要な議論だが、ここではそこに立ち入らない。その代わりに、阿蘇が過去に並外れて大きな噴火(カルデラ破局噴火)をしたことを紹介しよう。カルデラをつくるほどの大規模な火砕流噴火を現代火山学は経験したことがないから、それを予知するのはむずかしい。予知できないと言うのが正直だろう。しかし予知はできないが、カルデラ破局噴火はいったいどれくらいの確率で起こるものなのか、もしそれが起こったらどうなるかをあらかじめ知っておくことはきっと有意義にちがいない。

カルデラ陥没と火砕流


 だれも見た人はいないが、火山の地下にはマグマだまりがあると考えられている。マグマは、岩石が高温のためにドロドロに融けた状態のものを言う。マグマはふつう地下でじっとしているが、ときどき地表に顔を出す。これが噴火だ。

 地下から大量のマグマが地表に噴き出すと、マグマだまりの天井が支えを失って下に落ち込む。地表には大きな窪地が残される。これをカルデラという。
 カルデラの中には、しばしば水がたまって大きな湖ができる。北海道の屈斜路湖、支笏湖、洞爺湖、それから東北の十和田湖などがそれだ。カルデラの直径はどれも10キロ~20キロほど。天井が陥没するためには、それくらい大きなマグマだまりが必要らしい。

 大量のマグマが一気に噴き出すときは、火口の上に噴煙の柱を高くそびえ立たせて、そこから軽石や火山灰が、やおら降るより、むしろ火口の縁から四周にこぼれ出すほうが手っ取り早い。そのとき、軽石と火山灰と火山ガスからなる高温の粉体混合物が猛スピードで地表を走る。これが火砕流だ。実際どのカルデラの周囲にも、火砕流がつくった台地が何十キロも先まで広がっている。