カルデラ破局噴火のリスク


 いま阿蘇4噴火と同じ噴火が起こると、鹿児島県を除く九州全県と山口県の人口1100万人が数時間で死亡する。火砕流に飲み込まれた地域の住民はひとり残らず灼熱の風に焼かれるか、厚い砂礫の下に埋まる。地域住民全員が等しく犠牲になるカルデラ破局噴火災害は、地域住民の数パーセント以下だけが死亡する地震災害とまったく異なるのだ。

 同じ噴火がいま起こったときに失われる人命の数を、その噴火のハザードと呼ぶことにする。阿蘇4噴火のハザードは1100万だ。大正関東地震の犠牲者数は15万人だったから、阿蘇4噴火のハザードがいかに大きかったかわかる。

 しかしカルデラ破局噴火はめったに起こらないから、ハザードの大きさだけで災害の重大性を判断するのは適当でない。ハザードと発生頻度の積で決められるリスクを評価する必要がある。

リスク=ハザード×発生頻度
M(マグニチュード)=噴出量の常用対数	ハザード=それと同じ噴火がいま突発的に起こったら失われるだろう人命の数 リスク=ハザード/年代
M(マグニチュード)=噴出量の常用対数
ハザード=それと同じ噴火がいま突発的に起こったら
失われるだろう人命の数
リスク=ハザード/年代

 阿蘇4噴火の発生頻度をきちんと決めることはむずかしいがが、いまは桁が得られればよしとして、噴火年代の逆数でそれに代えることにしよう。噴火年代は8万7000年だから、リスクは126になる。同様に、2万8000年前に姶良カルデラから発生して鹿児島県・宮崎県・熊本県に広いシラス台地をつくった噴火のハザードは300万、リスクは107になる。

 リスクは、ハザードで示される死者数を1年あたりにならした期待値に相当する。少なくとも九州においては、カルデラ破局噴火のリスクは地震リスクと同程度もしくはそれを上回る。

カルデラ破局噴火にどう備えるか


  カルデラ破局噴火のときに発生する火砕流は、あらかじめダムをつくっておいても止めることができない。この種の火砕流は、高さ500メートル程度の障壁など難なく乗り越えてしまう。カルデラ破局噴火から助かるためには、事前にそこから退去しているしかない。

 だからカルデラ破局噴火の防災は、施設の建設や補強に頼ってきた従来の施策とはまったく違うものになる。災害文化の形成ともいうべき、何世代にも渡る知的努力の積み重ねが必要になる。

 一方で、ひとの一生の長さはせいぜい百年だ。カルデラ破局噴火のようなめったに起こらないリスクを心配して気に病んだり、その防災対策に莫大な投資をしたりを疑問視する向きもあろう。

 一生の間に遭遇する確率が1パーセントに満たないカルデラ破局噴火を心配するのは、杞憂なのかもしれない。しかし、深夜静かに、地球上のどこかの現代都市をいつか必ず襲うにちがいないカルデラ破局噴火に想いをめぐらすと、火山学者の私は思わず身震いをしてしまう。