河合雅司・産経新聞論説委員

 近ごろ、「世代間格差」という言葉がメディアをにぎわしている。

 国民が生涯に支払う税金や社会保険料などの負担総額と、年金や医療・介護といったサービスの受益総額との差が、現在の高齢者と20代以下とでは差し引き1億円にもなるとする政府などの試算があるためだ。

 だが世代間の差は、納税額や社会保障の損得だけで論じられるほど単純ではない。いま使われている道路や新幹線など社会インフラの多くは、現在の高齢世代が若い頃に納めた税金で整備されてきた。高齢世代にしてみれば「いまの若者は生まれながらにして社会基盤が整い、便利な生活を享受しているではないか」との反論もあろう。

 とはいえ、露骨な高齢者優遇策に若い世代が釈然としないのも人情だ。例えば、70~74歳の医療費窓口負担である。政府・与党は2割への引き上げを見送り、1割に据え置く特例措置をさらに続けることにした。

 背景にあるのは、夏の参院選に影響するのではないかという不安だ。有権者総数に占める65歳以上の割合はいまや3割近くにのぼる。しかも、一般的に高齢者のほうが若い世代よりも投票率が高い。

 選挙基盤の弱い政治家ほど、高齢者の反感を買えば次の選挙で「落選」という手痛い洗礼を受けかねないとの恐怖心を抱くのも仕方ない。こうして、選挙が近付くたびに課題を先送りする大衆迎合政治が繰り返されていく。

 少子化対策に特効薬がないため、状況は悪化し続けそうだ。若い世代に「自分たちの声が政治に届かない」との失望感が広がり、さらに彼らの足が投票所から遠のけば、高齢者優遇はますます進む悪循環となる。

 こうした流れを断ち切らなければならないが、ヒントとなりそうな興味深いアイデアがある。参政権のないゼロ歳児にまで投票権を与えるのだ。これは米国の学者、ポール・ドメイン氏が提唱しているものだ。

 子供たちに「一票」を与えるといっても、直接投票させるわけではない。保護者が将来世代の「代理人」となるのだ。親は自分のための一票と、自分の子供のための一票とを投票箱に入れるというわけだ。

 これならば、選挙権取得年齢の引き下げとは違い、ゼロ歳児まで対象にするので、近い将来の「高齢者が有権者の半分近くを占める」という事態も避けられる。高齢者の顔色をうかがってきた政治家たちも、将来世代に安易に負担を押しつけることができなくなるだろう。

 そもそも、人口減少という国難への対応は、目の前の課題に関心が集まりがちな高齢者よりも、22世紀まで生きて責任を負う世代の“意見”こそ、より取り入れるべきなのである。

 このアイデアが現実的なものかどうかは分からない。実現しようとすれば課題も多いだろう。ただ、ここで大事なのは一度、発想を大胆に変えてみることである。過去からの延長線上で物事を考えていたのでは、日本の少子高齢化は乗り越えられない。