「2020年の春から秋まで約半年間、神宮球場を使うな。自分たちに使わせろ!」

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の要請に対して、神宮球場が「要請を受け入れるのは難しい」と回答した。この報道に接して、まずは胸をなでおろした、というのが素直な感想だ。

森喜朗・東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長
森喜朗・東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長
 経緯から説明しよう。3月下旬、東京五輪・パラリンピック組織委員会が、大会のメインスタジアムとなる新国立競技場に隣接する神宮球場に「大会前後の約半年間の球場使用中止」を要請したと4月に入って報道された。組織委員会の関係者はその理由を「周辺は通行止めなどのセキュリティー対策が不可欠で、機材置き場などの確保も必要になる」と取材に対して答えたと報じられている。

 2020年の東京五輪では野球の「五輪種目復帰」が有力視され、野球関係者にとっても大切な大会に違いない。その成功のために必要な協力や努力なら、当然、「多少の犠牲は払ってで惜しまずにする」というのが、野球界の覚悟だろうし、野球に関わる者たちの率直な空気だ。

 すでに神宮外苑周辺は五輪前後で大きな変貌が計画されている。秩父宮ラグビー場は先に解体され、大会中は駐車場になる。その場所に新球場を建設し、2022年度末までには完成。その後に現在の球場を取り壊してラグビー場を造ると公表されているから、野球関係者はすっかり安心していた。
ところが、今回の要請は、その思いを踏みにじるものだった。単純に言って、犠牲が大きすぎる。プロ野球だけでなく、高校、大学を含め、アマチュア野球の活動の基盤を揺るがすほどの要請である。

 「ちょっとどいてくれ、物置も必要だ」、オリンピック様のお通りだ、と言わんばかりの横暴さは野球関係者そして野球ファンを逆なでしただろう。他のスポーツに敬意を払わない神経と、行き当たりバッタリの経営感覚が露呈された。

 私は、お祭り騒ぎで国民の支持を獲得することにも成功した招致活動の段階から一貫して、2020年東京五輪・パラリンピックの開催に反対し続けてきた。その主な理由は、

1.東日本大震災の復興が進んでいない。まずはそれを国の最優先課題にすべきだ。
2.なぜ東京五輪・パラリンピックを招致し開催するのか? 経済効果やインフラ整備など、スポーツと直接関係ない目的が目立つ。様々な問題を内包するスポーツ界の問題を明確に共有せず、今後の哲学やビジョンなしに東京五輪・パラリンピックをお祭り騒ぎで実施する弊害の方が大きい。
3.テロの懸念は今後ますます深刻になる。その危険と引き換えにしてまで開催するのか。
以上の3点だ。

 招致が決まったからには、前向きな成果を期待したいし、微力を尽くせるなら少しでも役に立ちたいと考えている。その根幹となるのは、「大会の準備段階から、2020年以降の日本の新しいスポーツの方向性を創り出し、社会全体がその価値観や方向性を共有すること」だ。