鎌田浩毅(京都大学教授)

鎌田浩毅著『西日本大震災に備えよ』より)

南海トラフ巨大地震の災害予測


 現在、国は「想定外をなくせ」という合い言葉のもとに、南海トラフ巨大地震で起こりうる災害を定量的に予測している。中央防災会議が行った被害想定では、東北地方太平洋沖地震を超えるM9.1、また海岸を襲う最大の津波高は34メートルに達する。加えて、南海トラフは海岸に近いので、一番早いところでは2分後に巨大津波が海岸を襲うのだ。

 地震災害としては、九州から関東までの広い範囲に震度6弱以上の大揺れをもたらす。特に、震度7を被る地域は10県にまたがる総計151市区町村に及ぶ。その結果、犠牲者の総数32万人、全壊する建物238万棟、津波によって浸水する面積は約1000平方キロメートル、という途方もない被害が予想されている。

 南海トラフ巨大地震が太平洋ベルト地帯を直撃することは確実だ。被災地域が産業・経済の中心地にあることを考えると、東日本大震災よりも一桁大きい災害になる可能性が高い。

 すなわち、人口の半分近い6000万人が深刻な影響を受ける「西日本大震災」である。

 経済的な被害総額に関しては220兆円を超えると試算されている。たとえば、東日本大震災の被害総額の試算は20兆円ほど、GDPでは3パーセント程度だった。西日本大震災の被害予想がそれらの10倍以上になることは必定なのである。

9世紀と酷似する日本列島


 南海トラフ巨大地震の発生が確実視される21世紀は、日本史の中でも特異な時代として記録されるのではないか。というのは、地球科学的には同じように異常だった9世紀の日本と酷似しているからである。

 地球科学では地層に残された巨大津波の痕跡や、地震を記録した古文書から、将来の日本列島で起こりうる災害の規模と時期を推定している。これに従って、9世紀の日本で何が起き、さらに今後何が起きうるのかを考えていこう。

 「3.11」は869年に東北地方で起きた貞観地震と酷似している。そして驚くべきことに、1960年以降に日本で起きた地震や火山噴火の発生地域や規模が、9世紀のそれによく似ているのである。具体的に見てみよう。
 9世紀前半の818年に北関東地震が発生した。ここから9世紀の「大地変動の時代」が始まり、827年の京都群発地震、830年の出羽国地震と直下型地震が続いた。

 9世紀は地震だけでなく火山の噴火も頻発していたので見ておこう。832年に伊豆国、837年に陸奥国の鳴子、838年に伊豆国の神津島、839年に出羽国の鳥海山、と各所で立て続けに噴火した記録が残っている。