武田邦彦(中部大特任教授)

 熊本地震ではメディアの横暴が度を超していて、熊本県の人に強い違和感を与えている。たとえば、関西テレビの車が、朝早くからガソリンスタンドに並んでいる人たちの列に割り込み、テレビ局が謝罪した。

倒壊の恐れが高まり、立ち入れなくなっている熊本県宇土市役所庁舎=4月18日午前
 確かに、著者が見ていた地震当日のNHKの中継は眉をひそめるものが多く、ネットでも厳しく指摘されている。阪神・淡路大震災の時に、故・筑紫哲也が倒壊した民家の上に立って「温泉街の風景だ」などと人の苦しみをまったく感じていない中継をして顰蹙を買ったのとほぼ同じようなものだ。

 でも、このようなことは人の神経を逆なではするものの、地震被害を増大させているメディアの罪のうちほんの一部である。実は、長い間、メディアは「防災」と言いながら、実はマッチポンプのように「自ら災害を大きくする原因を作り、実際に災害が起きるとその悲惨さを大々的に報道する」ということを続けて、視聴率をあげる作戦にでている。それを事実で整理してみたい。

 1978年に「大規模地震対策特別措置法(大震法)」に基づく地震予知体制が出来て以来、メディアは「東海に地震が来る」、「東南海に来る」と「政府の言うとおりに」報道を続けた。まともな神経を持っていれば、それから38年間、東日本大震災、阪神淡路大震災を始め死者が10人以上の地震や噴火が9件、震度4以上の地震に至っては無数と言ってよいほどなのに一つも地震を予測できなかったのだから、正常な判断力をもつ報道機関ならおかしいと思うはずだ。
((注)地震予知がはじまってから10人以上の死者を出した地震は、日本海中部、北海道南西、阪神淡路、新潟中越、新潟中越沖、岩手宮城内陸、東日本、熊本、それに御嶽山の噴火も同様)

 つまり、「地震予測が理論、発生した地震がデータ」という関係だから、「理論で予測した結果はデータとまったく違う」ことが38年間も続いているのに、同じ理論で計算した結果を今も報道している。その結果、今回も含め地震が起きた地方の対策は大きく遅れて被害を増大させている。

 熊本地震では倒壊家屋などが多かったし、前震と本震を間違えて、さらに圧死者を出した。

 このように長年にわたるデータ無視というのは著者のような科学者の理解を超える。そこで著者は数日前、ある心理学者を訪ねて「理論の予測が38年間、一件も合致しないのに、その理論で計算した結果を公表し報道するという心理はどういうものか?」と聞いてみたら、「それは、利得によって価値基準を変えるという異常心理の一つ」と説明された。

 つまり、「自分は科学者や記者である」、「理論とデータが違えば、本来は理論を疑う」、「この手段を失うと利得を失う」、「地震は儲かる」という矛盾した状態の中にいて、どれでも選択できると説明された。