茂木健一郎(脳科学者)

 九州の熊本を中心とする地域が、二度にわたる大きな地震に襲われて、たいへんな被害が出ている。余震もなかなか収まらない。私の母は九州出身(佐賀生まれ、北九州育ち)であり、子どもの頃から何度も里帰りしていただけに、自分のことのように感じる。これ以上被害が広がらないこと、被災地の復旧、そして一日も早く平穏な生活が戻ることを願ってならない。

 震災を受けて、日本の社会に広がる自粛ムードをめぐり、論争が起きている。私は、次のように考える。

 まず、自ら少し控え目にしよう、派手なこと、騒ぐようなことは慎もう、という心の動き自体は、自然なことだと思う。人間の脳には、前頭葉を中心とする「共感」の回路がある。他人の痛み、苦しみを、自分のことのように感じる共感能力は、人間らしい、素晴らしい心の働きだ。そのような共感に基づき、自粛することが悪いはずがない。

 問題なのは、共感が自発的なものではなく、時に「強制」されてしまうということである。とりわけ、日本のように「同化」の圧力がもともと強い社会では、自ら共感して自粛するというよりは、自粛が外から強制されてしまうことも多い。今の日本を覆っている「自粛ムード」の中には、多分にそのような側面があるのではないか。
 もちろん、空気を読むことも時には大切だし、回りに合わせることも重要である。しかし、一種の強制による自粛で、社会が萎縮してしまうと、失われてしまう大切な価値がある。

 失われてしまうものは、何よりも「多様性」である。社会の中には、さまざまな人がいて、いろいろな活動をする。そのことで、活力は保たれ、経済も回っている。もし、皆が同じような行動をとってしまうと、社会から強靭さが失われてしまう。