吉崎達彦(双日総合研究所チーフエコノミスト)

 今年はつくづく米大統領選挙への関心が高いと思います。今週発行の『週刊ダイヤモンド誌』の「踊る米大統領選挙」特集はなんと44pもあります。それというのも、ドナルド・トランプ効果による「ハイテンション」な予備選挙のお陰でしょう。これだけサプライズが多いのは、現オバマ大統領が誕生した2008年選挙に匹敵すると思います。

 いろんな論点が考えられるところですが、本号では「米共和党の変質」を取り上げてみました。日本にとってもなじみ深い政党ですが、どうもわれわれの知っている昔の共和党ではなくなってきているのではないか。そうだとしたら、いったいどこがどう変化しているのか。歴史を遡って考えてみたいと思います。


ついに潮目が変わったのか?


 本誌の経験から言って、米大統領選挙を占う上でもっとも頼りになるのはオンラインカジノである。おカネを賭けている人たちは、イデオロギーや偏見などとはまったく無縁に事実を直視するという習慣を有している。だから現実の変化に即してオッズが動く。それに比べると、政治評論家の分析や世論調査のデータなどはバイアスがかかっているものが多く、素直に受け止めにくいところがある。

 できれば米国以外のサイトが望ましい。ということで、2016年選挙では英国のブックメーカー、Paddy Power社が提供している”US Presidential Election 2016”というサイトを多用している。この指標をみると、3月下旬からトランプ候補のオッズが急低下している。一時は「2対1」(単勝倍率3.0倍)まで行っていたものが、4月に入ると「6対1」(単勝倍率7.0倍)となり、今日時点では「7対1」まで低下している。

 このトレンドを見やすくしたものが、選挙のたびにお世話になっているアイオワ電子市場主催”2016 U.S. Presidential Market”である[1]。「自分が選んだ候補者が勝てば1ドルもらえる」という権利が、何セントで売買されているかをトラックしたものだ。下記はその共和党候補者の動きだが、「トランプ株」(TRUM_NOM)はほとんど暴落と言っていい。
 いったい何があったのか。3月下旬と言えば、「人工中絶をした女性は罰せられるべき」「日本と韓国が核武装すればいいと思っている」などのトランプ発言が飛び出した時期だが、そんなことで潮目が変わるとは考えにくい。この程度は日常茶飯事というもので、失言が命取りになるなら、とっくの昔にフロントランナーの座を明け渡しているはずである。

 種明かしは簡単で、4月5日のウィスコンシン州予備選挙で勝ち目が薄い、ということが見えてきたからであった。同州の代議員数は42と決して多くはないが、実際にクルーズ候補に大差で敗北してみると、現時点の代議員数は745人。残る16州769人の代議員のうち63.9%を確保しないと、「党大会までに過半数の1237人」という目標には届かなくなる。

 もちろんこの後も、ニューヨーク州(4/19=95人)、ペンシルバニア州(4/26=71人)、カリフォルニア州(6/7=172人)などの大票田が残っている。とはいえ、紙一重で届かないというのがプロ筋の見方である[2]。つまりは単なる足し算の問題で、「選挙人の数が足りない」と見なされたことがオッズ急落の原因なのであった。