パンク町田



 アジアゾウのはな子ですか…。僕も子供のころから(はな子に)癒されてきました。練馬生まれの中野育ちですから中央線一本です。僕は三十歳過ぎまで井の頭自然文化園(通称・井之頭動物園)へ頻度に足を運んでいましたが、ハナ子は立ち尽くすことなく、陽気で愛情に満ちた眼差しを来園者に披露していましたね。なのに…。もう老体なのでしょうね。僕とてもせつないです。

 だから僕、今の“はな子”を労わる方法を真面目に考えました。まず輸送・移動は絶対ダメ。トンデモナイ話ですね。老体の動物の飼育環境が変わるというのは、我々がどんなに良いことをしてあげたつもりであっても、逆効果になりやすいと言うことを僕は声を大にしてここでお伝えします。

来園者に愛きょうを振りまくゾウの「はな子」=東京都武蔵野市の井の頭自然文化園
来園者に愛きょうを振りまくゾウの「はな子」
=東京都武蔵野市の井の頭自然文化園
 例えば人間の場合、御老人が少々怪我をしただけですが、大事をとり入院したとします。すると、以前より元気がなくなり、寝込みがちになる。或いはボケが加速化したなど聞いたことありませんか? それはですね、各種・各個体ごとに能力の誤差はあるものの、人を含む動物に複数のことを同時に学習させようとすると、すでに習得していた関連する記憶や技術がぎこちなくなったり、場合によってはいわゆるド忘れと言われるような停止状態を起こしてしまうんですね。そして動物の輸送・移動(引っ越し)と言うのがこれに当たるのです。

 一見して引っ越しと言うのは、住処が変わるという一つの変化のように考えてしまいがちですが、動物の立場から考えると、飼育員も新しくなり、餌の器も変わり、もちろん獣舎だって変わりますから、決して一つの変化ではないんです。複数の変化であり、即ち、複数のことを同時に学習させようとしていることになるわけですね。

 神経質な種類や固体であれば、飼育員の服装や帽子が変わっただけでも混乱を招く場合があるぐらいですから、老個体であるはな子に、このような数多くの新しい条件を同時に介入すると言うことは、一般に考えられている以上に時間を要し、脳の機能的にも負担が大きく、非常に大きなストレスをかけることになります。

 このような理由から、引っ越しは老化を促進させ、死期を早める恐れが強まるんですね。それに、話によると、ハナ子は既に歯が一本しかないと言うではありませんか! しかも69歳!! これ、どういう事か解りますか? 人の最高年齢122歳とゾウの最高年齢86歳から割り出し、人間の寿命に換算すると約80歳です。

 それにゾウは、乳歯が3回と、永久歯が3回の合わせ66回歯が生え変わりますが、はな子は既に6回めの最後の歯が1本残るのみ。陸生哺乳類の寿命は、歯の寿命と比例させる見かたがあります。即ち、はな子にはもう時間がないんですね。子ゾウのころから住み続けた土地から、残り短い余生を別天地で暮らしたいなんて思うでしょうか? ましてや国外? 今まで井の頭自然文化園で飼育され続けたゾウを、人間の勝手なイメージで輸送・移動するなんて、僕は無知による虐待だと思いますね。