佐藤栄記(動物ジャーナリスト)

 私は象のはな子さんのいる井の頭自然文化園の年間パスポートを持っていて、しょっちゅう足を運んでいます。はな子さんの飼育場の前には、ベンチがあり、私はたいてい空いているそのベンチに座り、少しでも長い時間、はな子さんを見るようにしています。

 ここは、瞑想にふけるのには最高の場所だからです。なにせ陸上哺乳類で最大の動物であるゾウ、しかもその国内最高齢記録保持者が目の前で同じ瞬間を生きているのですから。

 ひとつの命をじっと見つめる事は、その生き物の生態を理解する上でとても重要です。そしてよく見るという事が、よく考えるという一番大切な事へつながっていく気がします。 長い時間、じっとその場にたたずみ見続ける事で、単なる生態観察ではなく、その命に対し、いろいろな事を考えるようになっていきます。

 『この象を、こんなにも狭い場所に閉じ込め続ける権利が人間にあるのだろうか』

 そんな事を考えます。

 動物園とは人間からすれば、本来はまず見る事のできない野生の生き物を観賞し、楽しむ事ができる場所ですが、檻の中で一生を過ごし死んでいく動物の立場で考えると、物凄く悲しく残酷な場所に思えます。

 もう10年ぐらい前でしょうか、テレビで旭山動物園の園長である坂東元さん(当時は副園長)がこの事について、『必要悪』という表現をされていました。動物園は、人々を喜ばせるだけでなく、希少動物の繁殖や研究等も手掛けています。だから必要とした上で、本来は大地を駆け回る生き物を狭い檻に閉じ込めているのだから悪であるという事を正直におっしゃっていました。
夏期営業が始まった旭山動物園でキリンを見る来園者=4月29日、北海道旭川市
夏期営業が始まった旭山動物園でキリンを見る来園者=4月29日、北海道旭川市
 私もこの考え方に非常に近いものを持っています。しかし、悪だとわかっていて悪であり続けるのはいけない事だと思うのです。