五十嵐仁(元法政大大原社会問題研究所教授)

 とうとう「本音」を吐いたというところでしょうか。安倍首相の「在任中」に改憲したいという発言です。

 これまでも改憲への意欲を示してきた安倍首相でした。しかし、「在任中」と明言したのは、今回が初めてです。

 安倍首相は2日、参院予算委員会の基本的質疑で、憲法改正について「在任中に成し遂げたい」と述べ、首相在任中の実現に強い意欲を示し、改正時期にも踏み込みました。首相の自民党総裁としての任期は2018年9月までですから、それまでには改憲したいと表明したことになります。

 同時に首相は、憲法改正の発議には、衆参両院で3分の2の賛成が必要だとして「わが党だけで3分の2を獲得することはほぼ不可能に近い。与党、さらには他の党の方々の協力も頂かなければ、(改正は)難しいのではないかと思っている」との認識を示しました。自民党だけでは不可能だということも認めた形です。

 いよいよ、与野党対決の焦点として改憲の是非が浮上してきたということになります。それも「日本のトランプ」とも言うべき危険な指導者である安倍首相の手によってなされようとしているわけですから事態は重大です。

 このような企みを阻止するためには、自民党を孤立させなければなりません。安倍首相自身、「わが党だけで3分の2を獲得することはほぼ不可能に近い」と述べているように、「与党、さらには他の党の方々の協力」を防げば、改憲を阻止することができます。

 ここで言う「与党」とは公明党のことですが、石田政調会長は「ちょっと唐突な感じがする。なかなか現実的なのかな……」と述べて、戸惑いを示しているといいます。「他の党の方々」というのはおおさか維新の会ですが、9条改憲という点では自民党と同じではありません。

 さし当り、この二つの政党が安倍改憲に協力しないように牽制し、批判を強める必要があるでしょう。また、当面の「お試し改憲」のテーマとされている緊急事態条項導入の狙いと危険性についても明らかにしていかなければなりません。

安保関連法に反対し「SEALDs(シールズ)」などが開いた集会。国会議員も登壇し、参院選に向けた野党共闘への支援を求めた=2016年3月13日午後、東京・JR新宿駅前
安保関連法に反対し「SEALDs(シールズ)」などが開いた集会。国会議員も登壇し、参院選に向けた野党共闘への支援を求めた=2016年3月13日午後、東京・JR新宿駅前
 それ以上に重要なことは、参院選で改憲勢力が3分の2を上回らないようにすることです。具体的には、自民党・公明党・おおさか維新の会の3党の議席拡大を阻み減らすことが参院選での獲得目標となります。

 そのためには、「5党合意」に加わっている政党が議席を伸ばさなければなりません。これについて安倍首相は都内のパーティ―で「『自公対民共』の対決になっていく。決して負けるわけにはいかない」「民主党は選挙に勝ちたいがために共産党と手を組む。民共合作だ」と述べて、警戒心を露わにしたそうです。

 安倍首相の口から「民共合作」という言葉が飛び出すとは思いませんでした。私の言っていた「民共合作」論が、そこまで浸透したということなのでしょうか。

 このことは、安倍首相が最も恐れ警戒していることが民主党と共産党との連携・協力であることを示しています。安倍さんが嫌がるのであれば、それこそが力を込めて行うべき方向であり、「民共合作」こそが目指すべき方向だということになるでしょう。

 しかし、今回の「5党合意」は民主党と共産党という2党の範囲にとどまっていません。戦争法の廃止を求める野党5党が安倍内閣打倒に向けて共同歩調を取ることで合意したもので、この点に大きな意味があります。

 それは、アベ政治を許すのか許さないのか、政治が進むべき方向はこのままで良いのか転換すべきなのか、という大きな枠組みで参院選を戦うことを可能にしました。さらに、安倍首相の一連の発言によって、これに憲法をめぐる争点が付け加えられたために、日本の現状と未来をめぐる二つの道という対決構図がくっきりと示されることになりました。

 こうして、来る参院選は日本の進路をめぐって二つの勢力が真正面から対決する政治決戦になりました。改憲勢力とそれに反対する勢力による現代版の「関ケ原の合戦」です。

 改憲に反対する勢力には、公明党の支持基盤である創価学会内で戦争法に反対する人々や解釈で集団的自衛権の行使を可能にすることに反対する保守勢力や自民党員も糾合する必要があります。まして、9条改憲に反対する幅広い人々の結集は不可欠です。

 安倍首相が戦争するための国造りを進めていること、それを完成させるためにこそ「在任中」に改憲したいと意欲を強めていること、そのために着々と手を打ち既成事実化を進めていることは、最近の政治の動きに盲目でない限り、国民の多くには理解可能なことでしょう。その結節点として参院選の場が選ばれ、そこで二つの勢力が激突しようとしているわけです。

 ここでの勝敗が、これからの日本の運命を決めることになるでしょう。だからこそ、「政治決戦」なのです。

 もし、安倍首相が勝利すれば改憲に向けての扉が開かれます。逆に、与野党逆転などによって「敗北」させれば、政治責任を問われて安倍首相を退陣させることができるかもしれません。

 安倍首相の勝利か、退陣か。それが問われる選挙戦になろうとしています。

 あなたはどちらの側に立つのですか。1人1人の国民にとっては、このことが問われることになります。

 改憲ではなく護憲の側に、戦争ではなく平和の側に立ちたいと、私はそう思います。少なくとも、安倍首相を喜ばすような結果にはしたくありません。

 2006年参院選の再現をめざそうじゃありませんか。自民党が37議席と歴史的大敗を喫して秋の安倍退陣に結びつき、公明党も神奈川・埼玉・愛知で現職議員が落選して議席を減らした第1次安倍内閣のときの参院選の再現を。
(「五十嵐仁の転成仁語」より2016年3月3日分を転載)