和田秀樹(精神科医)



 今回の特集テーマは、「金八先生は今も理想の教師像なのか」とのことだが、私自身は、金八先生待望派でなく、むしろ教師に「金八先生」を求めるなという立場である。

 たとえば、学校内の非行やいじめ問題にしても、教師が解決しようとするから、教師の負担が増えるだけでなく、子供の法律感覚が育たないのではないかと思っている。カツアゲで1円でも金を巻き上げたら、恐喝という法に触れるし、相手にけがをさせたら障害という法に触れることをわからせ、大人になってからの犯罪抑止のために警察に突き出すほうが、はるかに教育的に思えるのだ。

 私が臨床心理学の教員だからかもしれないが、子供の心理的問題についても、プロに任せたほうがはずれが少ない(素人のカウンセリングでもうまくいくことは珍しくないが、プロと違って、うまくいかなかったときの方法論やどういうことばが相手の心をかえって蝕むかを学んでいないので、害になることが珍しくないというデメリットがある)と考えている。

 それよりは、学力低下が止まらない中、子供にこれからの知識社会を生き抜ける学力を身につけさせてほしい、塾に行けない貧しい家の子供や教育産業が発達していない地方の子供にも、それによる不利を最小限にしてほしいというのが、教師、とくに公教育の教師に臨むところである。

 ということで、「金八先生」的なるものに懐疑的であったのだが、それが可能かもしれないと思うようになった事例がある。

 福島県のいわき市に磐城緑蔭高校という学校がある。

 いわき市にできた初めての私立中高一貫校ということで、開校の当初から私と私が経営する緑鐵舎のスタッフがカリキュラム作成や、直接指導を行っている学校だ。

 中学受験というものがなかったため、その対策塾もない地域なので、入学時の学力は東京の中高一貫校の合格者と比べると格段に低い。

 おそらく東京の名門受験塾でなら、小学校5年生の生徒でも解けるような問題での入学試験を行う。そして合格者の最高点は例年400点満点で300点程度。東京でなら、偏差値50の学校にも受かることのできない学力だ。さすがに100点未満の子は落とすが、定員割れということもあって、120点くらいでも合格させている。

 しかし、その子たちに、中1の1学期の間は、中学受験用の計算や読解をやらせ、その後は先取り学習をするという独自のカリキュラムを課したところ、昨年度はビリから2番の子がなんと国立大学に入った。ビリの子も東京の名門女子大に入った。

 今年も、東大に合格圏の受験生がいたのに合格できなかったのは残念だったが、福島県立医大にも合格者を出し、卒業生の4人に一人が慶応大学に現役合格した。現役合格率は全国8位という。

 トップクラスの子供の合格実績以上に、私が誇りたいのは、一人も落ちこぼれを作らないことだ。

 もっと誇りたいのは、一過性に具合が悪くなる子もいないわけではないが、ほとんどメンタルに問題を起こす子もいないし、犯罪もないし、いじめ問題も生じていないということだ。

 金八先生+学力向上、進学実績といばっていい学校になっている。