森口朗(教育評論家、東京都職員)

 広島県で無実の万引き事件が理由で推薦入学を断られた中学生が自殺するという痛ましい事件が起きた。いじめによる自殺は数年ごとに全国的な事件となるが(実態は毎年起きていると筆者は推測している)、今回の事件は極めてレアなケースだと思われる。だが、レアなのは推薦を断られた事で自殺に至ったという点であって、どのような事件も事件化しない膨大な不正・不祥事・事故がその陰にあると捉えるべきだろう。

 報道をベースに事件をおさらいしておくと、「広島県にある府中緑ヶ丘中学の一年生B君が2013年度に万引き事件を起こした。学校はA君が起こした事件として指導記録等に記載した。2015年度になってA君は私立高校への推薦入学を希望した。A君の担任は万引き事件を理由に推薦入学は不可である旨を伝え、絶望したA君は自殺した。万引き犯人のB君は学校から推薦を受けて無事高校に入学した」これが事件の概要である。

画像はイメージです
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 これだけでもやり切れないが、その後の学校側の対応が我々をさらに暗澹たる気にさせる。まず、A君が自殺したのは2015年の12月当初、学校は生徒や保護者にA君は病死だったと偽り、その理由をA君の保護者の意向だと嘘を重ねた。自殺は他生徒への精神的影響が大きいからという主張ならば一定の理解はできるが、最も悲しんでおられる保護者の意向という嘘を根拠にした時点で、彼らの動機が責任逃れのための隠蔽であるのは明らかだ。

 B君の推薦入学についても校長はB君の万引きは一度だけでその後頑張って生活したのだから推薦した旨答えているが、同校の推薦基準には「触法行為がないこと」が含まれており、校長の一存でルールが破られる学校体質が明らかになっている。自殺事件の引き金を引いた担任教諭は事件発覚後(決してA君の自殺後ではない)病気を理由に学校を欠席し続けている。

 無念ではあるが、ご両親や友人、さらには我々日本国民全員がいかに嘆き悲しんでもA君の命がよみがえることはない。我々にできることは、二度とこのような事件が起きないためには、どうすれば良いのかを考えることだ。

 事件が起きるたびに、それこそ金八先生のようなスーパーマンを望む声が起きるが、そういう姿勢は解決にも予防にもならない。すべての児童・生徒に我が子のごとく愛情を注ぎ、プライベートに踏み込み保護者とも全力でぶつかるのは(それを望む人には)理想かもしれないが不可能だ。それに実際にああいうチームで仕事のできない教員が存在したら、たぶん同僚にとっては迷惑だと思う。我々は教師に24時間勤務を望むべきではないし、私的領域への過度な介入も許すべきではない。我々は、もっと現実的で汎用性のある方策やシステムを考案し構築するべきなのだ。